大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成11年(ワ)3554号 判決

平成九年(ワ)第一〇七二号事件

原告(原告番号①)

甲野太郎

外一三名

平成九年(ワ)第三二三五号事件

原告(原告番号⑱)

甲山次郎

外六名

平成一〇年(ワ)第六三六号事件

原告(原告番号)

甲田花子

外二名

平一一年(ワ)第三三五五号事件

原告(原告番号)

乙野春子

外一名

平成一一年(ワ)第三五五四号事件

原告(原告番号)

乙田三郎

右原告ら訴訟代理人弁護士

大神周一

甲能新児

中村博則

曽里田和典

伊藤巧示

原田恵美子

縄田浩孝

古賀克重

柳澤賢二

春島律子

右原告ら訴訟復代理人弁護士

紀藤正樹

飯田修

秋山努

釜井英法

藤森克美

辻泰弘

平成九年(ワ)第一〇七二号、平成九年(ワ)第三二三五号、平成一〇年(ワ)第六三六号、平成一一年(ワ)第三三五五号、平成一一年(ワ)第三五五四号事件

被告

法の華三法行

右代表者代表役員

福永輝義

被告

株式会社アースエイド

右代表者代表取締役

星山康天

被告

福永法源こと福永輝義

外三名

右被告ら訴訟代理人弁護士

沼野輝彦

右被告ら訴訟復代理人弁護士

小比賀正義

花村聡

本間豊

主文

一  被告らは、別紙「損害金額一覧表」記載の各原告に対し、連帯して、同一覧表の各原告に対応する「損害額合計」欄記載の各金員及びこれらに対する「遅延損害金起算日」欄記載の日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主位的請求

被告らは、別紙「請求金額一覧表」記載の各原告に対し、連帯して、同一覧表記載の各原告に対応する「請求額合計」欄記載の各金員及びこれらに対する「遅延損害金起算日」欄記載の日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告法の華三法行は、別紙「請求金額一覧表」記載の各原告に対し、同一覧表記載の各原告に対応する「請求額合計」欄記載の各金員及びこれらに対する「訴状送達日の翌日」欄記載の日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、宗教法人である被告法の華三法行(以下「被告法の華」という。)が主催する研修に参加し、また、物品を取得するために多額の金員を出捐した原告らが、被告らに対し、被告らは、被告法の華及び被告福永法源こと福永輝義(以下「被告福永」という。)が中心となって、多額の金員を獲得することを目的として、病気等の不安を持つ原告らの窮状に乗じて、殊更その不安感、恐怖心をあおった上、研修に参加し、物品を購入すればこれらの不安がなくなるなどと勧誘し、研修に参加させるなどして、不相当に高額な金員を出捐させたものであり、これは宗教として社会的に許容される相当な範囲を逸脱するものであり、違法であると主張して、主位的には不法行為に基づき、予備的には不当利得に基づき、研修参加費用及び物品を購入するための出捐額並びに慰謝料等を請求したところ、被告らが、研修等はいずれも被告法の華の教義に基づく宗教的行為であり、社会的に許容される範囲内にあるとして、これを争った事案である。

二  争いのない事実

1  当事者

(一) 原告ら

原告らは、被告法の華の研修等に参加し、また、同被告から物品を取得するために、金員を出捐した者である。

(二) 被告ら

(1) 被告法の華は、静岡県知事の認証を受けて、昭和六二年三月二六日設立され、同県富士市に「天声村」と称する大規模な宗教施設を置く宗教法人である。同被告は、「南無天法地源如来行」を本尊とし、教義(「南無天法地源如来行」を通じて法師に啓示される「天声」を崇啓し、その天声に従って三法行を行じ、家系を正し、更に天行力を源かして自己の心身安定と錬磨に努め、もって完全円満なる人格を目指し、幸せな家庭及び平和な社会を形成すること。)を広め、儀式行事を行い、信徒を教化育成することを目的とし、その目的を達成するために必要な業務を行うものとされている。

(2) 被告福永は、被告法の華の教祖かつ代表役員である。

(3) 被告株式会社アースエイド(以下「被告アースエイド」という。)は、平成二年九月一三日に設立され、出版及び雑誌の企画、編集、制作及び販売、並びに広告及びイベントの企画、設計、制作、運営及び実施等を主たる事業目的とした株式会社である。主な出版物には、「病苦を超える最後の天行力」など、多数の被告福永の著書(以下、これらの著書を併せて「本件著書」ということがある。)がある。

(4) 被告井本房子(以下「被告井本」という。)は、被告福永の実母で、被告法の華の機関誌を発行する株式会社さくら新聞社の代表取締役であり、被告法の華の理事かつ責任役員である。

(5) 被告星山康天こと李康天(以下「被告星山」という。)は、被告アースエイドの代表取締役であり、被告法の華の理事かつ責任役員である。

(6) 被告野添築子(以下「被告野添」という。)は、被告法の華の「天仕」と呼ばれるスタッフの一人である。

2  原告らの出捐

原告らは、それぞれ、被告福永及び被告野添を初めとする被告法の華のスタッフの勧誘により、「人間法源生きざま修行」、「超人間完成生きざま修行」等と称する四泊五日の研修に参加し、また、右研修終了後、被告福永及び被告野添を初めとする被告法の華のスタッフの勧誘により、「家の中心」と称する掛け軸や仏舎利塔等を取得するために、被告法の華に対し、別紙「出捐額の内訳」記載のとおり、右研修参加費用及び掛け軸等の代金を支払った。

三  争点

1  被告らによる研修参加及び物品購入に対する勧誘行為の違法性

【原告らの主張】

被告らの原告らに対する勧誘行為は、以下のとおり、その目的、手段及び結果に照らして、宗教的活動として許容される社会的に相当な範囲を逸脱したものであり、違法である。

(一) 目的

被告法の華は、「足裏診断士養成マニュアル」を初めとする各種マニュアルを使い、信者の獲得及び研修に参加させることを目的として勧誘行為を行い、参加者は、極めて多額の研修参加費用を支払わされていること、ノルマを課された天仕らは、天納金(被告らの説明によれば、天に納める金)の額等に応じて、般若料名目で報酬が支払われていること、信者から集めた多額の金員は、被告福永が個人的に費消しており、有効な使途に充てられていないことなどからしても、宗教本来の目的である超自然的存在に帰依して、いわゆる魂の救済を図ることとは無縁であり、原告らから金員を出捐させることを目的とするものに他ならない。

(二) 手段

(1) 端緒

被告らは、被告福永を著者とし、被告アースエイドを出版元とする「病苦を超える最後の天行力」等の本件著書を販売し、被告らは、その後の勧誘を効果的に行うため、病院付近を重点的に、配布活動を行った。

本件著書には、意見、感想などを記入するようになっているアンケート葉書が折り込まれたり、本の末尾に連絡先が記載されており、そのあて先は、被告法の華の布教部門の呼称である「ゼロの力学本庁」となっていたが、被告法の華の名称は出ていない。また、出版元である被告アースエイドに問い合わせがあった場合、内線で「ゼロの力学本庁」に回すようになっていた。

このように、被告らは、本件著書に興味を持った読者が、宗教とは認識せずに問い合わせてくるようなシステムになっている。

(2) 足裏診断

被告らは、右の方法により問い合わせてきた読者を、被告法の華の本部又は支部などに呼び出し、足裏診断を受けるよう勧誘する。この足裏診断とは、被告福永が、「天行力(被告らが、宇宙それ自体を動かし、同時に万物生成を根源から支え、宇宙にある生命を活性化させるパワーないしエネルギーと称するもの。)」は頭から足に抜けるため、足の裏を見れば、その人の人生や今後の運命が分かるとして、平成元年ころから始めたものであるが、その実態は、相談に来た者に対し、予め書面に悩みや不安を記載させて、これを事前に把握した上で、足裏診断をした際、「足が汚れている。」、「このままでは癌になる。」などと申し向けて、殊更に不安をあおるものである。

これは、足裏診断の内容が極めて定型的であって、一律に研修の参加を勧めるものであること、「天行力」は被告福永以外には感得することができず、診断内容は「天声」に基づくものであるとしながら、同被告以外にも足裏診断士が存在し、足裏診断を行っていること、被告法の華の天仕である平賀茂が作成した「足裏診断士養成マニュアル」が存在し、右マニュアルには、「あなたはこのままだと癌になるよ。」などの害悪の告知の方法が具体的かつ詳細に記載されていることなどからして、足裏診断が根拠のないものであることは明らかである。

(3) 研修への勧誘

被告らは、右のとおり害悪の告知をして、原告らの不安をあおった後、研修への参加を執拗に勧める。その際、研修の効果が必ずあることを約束し、他方、研修に参加しない場合には害悪が生じることを繰り返し述べ、また、研修内容を知らせず、質問する者に対しても、教えると効果がなくなる等と説明し、原告らに参加すべきか否かを決定するための判断材料を与えない。その上で、「二四時間以内に決めないと意味がない。」などとして、即断、即決を迫る。

(4) 宗教性の秘匿

被告らは、右(1)ないし(3)の行為を通じ、足裏診断及び研修の主体が、宗教法人である被告法の華であることを一切知らせず、かえって、宗教ではないかと質問する者に対しては、宗教ではないと積極的に虚偽の返答をした。

(5) 研修の内容

被告らは、研修参加者(以下「参加者」という。)に対し、現金を含めた荷物をすべて取り上げ、私語、電話、テレホンカードの携帯、メモ帳の携帯等を禁止し、睡眠時間を極端に削るなどした上、七観行を繰り返し絶叫させたり、街頭で土下座をさせたり、参加者を一対一で向き合わせて、互いに罵り合いをさせたり、被告福永自身が参加者を平手で叩くなど、過酷かつ無内容な研修をさせた。

このような研修が、参加者の正常な判断能力を奪うことを目的としていることは明らかである。

(6) 物品等の購入

被告らは、研修の結果正常な判断力を奪われた原告らに対し、被告福永自らが、「天声」に基づくと称し、「家の中心」、「自分の中心」等と称する掛け軸等の物品購入名目で、多額の金員を出捐させた。

研修後は、被告野添等の天声講師が地方に赴き、「天声」を伝えると称して、また、「今までに支払った修行代が無駄になる。」と告知するなどして、物品等を購入させた。

(7) 「天声」の欺瞞性

被告らは、「天声」が、被告法の華の足裏診断、「観いの定め」、研修等の根拠になっている旨主張するが、被告福永が初めて「天声」を聞いたとされる具体的な状況等の説明が矛盾していたり、被告らにとって都合のよい内容のみを含んでいることからすると、「天声」とは被告福永が作り上げた虚言であり、原告らを陥れるための手段というべきである。

(三) 結果

原告らによる研修費用等の個々の出捐は、被告福永が自認するとおり、異常に高額な出捐であり、総額でも、少なくとも六一〇億円という莫大な金額にのぼるが、被告らは、その使途については、人類救済という曖昧な説明をするのみである。

これに対して、原告ら参加者は、過酷な研修によって、病状が悪化する者や、家族関係を悪化させる者まで出ている。

また、宗教上の喜捨とは、勧誘行為者が、当該宗教の教義などを真実と信じ、かつ、善意でこれを説いた結果、右説明を理解し、賛同した者が、その宗教心に基づき、金銭等を出捐することを指すと解すべきであるが、本件において、被告ら及び被告法の華のスタッフらが、「天声」の存在や「天行力」の作用を真実信じて、これを善意で説いた、また、原告らが被告らの説明を理解、賛同し、その宗教心に基づいて出捐したといえないことは明らかである。

【被告らの主張】

被告らによる研修参加、物品の取得を勧誘する行為は、以下のとおり、教義上の意味を持つ行為であって、また、その目的、手段及び結果に照らしても、社会的に相当な範囲内の行為である。

(一) 被告法の華の教義は、その立教以来二〇年間一貫して、公然と説かれ、実践されてきたものであり、金集めの目的により便宜的に作られたものではない。

また、宗教法人が信者を集め、その修行参加者を募ることを目的とした組織作りをし、それにしたがったマニュアルが存在するのは、むしろ当然のことである。

(二) 宗教法人がその教義を広めるための媒体として著書を利用することは当然であるし、被告法の華の教義において、「天行力」を体内に貫通させることにより、病気から回復することができるとされていることからすれば、病院を布教の対象とすることも奇異なことではない。

(三) 足裏診断の結果に基づき、一定の害悪を告知しているのであり、無差別的に害悪を告知しているわけではない。

また、足裏診断士養成マニュアルは、被告法の華の天仕である平賀茂が、足裏診断士養成のために私的に作成したものであり、診断を表現する言葉として用いられるべき例が挙げられているにすぎないし、害悪の告知をするための方策を記載したものではない。仮に、行きすぎた表現があるとしても、それは一信者の熱意の表われにすぎない。

(四) 研修への参加、物品の取得につき、即断、即決を迫るのは、被告法の華の教義又は修行に関心が向けられた時を好機として、雑念を生じる隙を与えずに修行へ誘導することこそ、人を救済する方法であると信じているからである。

また、被告法の華の天仕らが、修行への参加を勧誘することも、その教義上、「観い向け」という修行の一つとされている。

(五) 被告法の華は、自己責任を強調し、超自然的な存在への依存性を廃するという観点から、宗教であるという自己認識が希薄であるにすぎず、宗教性を殊更隠匿しているわけではない。

また、被告法の華においては、一般に宗教が敬遠される理由となるような、離脱の困難性や信者獲得に対するノルマは一切存在しないし、高額な喜捨が必要なことも当初から明らかにしているのであり、宗教であることを明示しないことが違法となることはない。

(六) 研修の内容は、「頭を取る」という目的を達成する見地から合理的に構成されているし、日常性を打破するために荒唐無稽と思われるようなことをするのが、修行の持つ属性である。

また、研修の内容を参加者に教えないのは、研修目的の達成のためには、先入観や雑念を持たないようにする必要があるからである。

(七) 被告法の華の教義においては、人間が考え出した理論、理屈及び計算といったものを捨て去ること(被告らは、これを「頭を取る」と呼んでいる。)が、個人の幸福(生命体本来の喜びに満ちた人間性の回復)を実現するものとされており、頭を取るためには、生命の次に重要視されている金員をあえて捨て、必死の決意を持つこと(被告らは、これを「観いの定め」と呼んでいる。)が必要であるとされている。

したがって、出捐額が常識的に見れば異常に高額であるのも、金員を出捐すること自体が修行としての意味を持ち、物品の購入やサービスの提供の対価としての意味を持っていないからである。また、研修参加費用の出捐は、修行に際して、これをやり遂げる決意を固める(被告らは、これを「肚決め」と呼んでいる。)契機としての意味をも有する。

原告らの出捐は、客観的に見て、宗教団体に対する全く反対給付の伴わない出捐であるという意味において、喜捨に当たる。また、出捐者にとっては、その認識が喜捨であると研修参加費用であるとを問わず、当該出捐をしなければ、四泊五日の修行を受けられないという点では共通しており、また、これを決意した時点ですでに修行としての意味を果たしているのであるから、これを説明し、出捐者がこれを理解したかどうかは重要ではない。したがって、被告らにおいて、当該出捐を研修参加費用、物品購入代金等という言葉をもって説明していたとしても、それは便宜上のものにすぎない。

なお、研修への参加又は物品の取得のために必要な金員は、天納金(天に納める金)と呼ばれるもので、修行の種類、程度に応じてその最低額が定められる。

(八) 原告らが、研修に参加し、物品を取得するなどした行為は、被告らの勧誘を契機とはしていても、最終的には自発的な決断、行動に他ならないのであり、原告らは、別紙「被害態様(被告らの主張)」記載のとおり、いずれも自発的意思を裏付ける行動をとっている。

また、原告らは、欺罔されたというよりも、研修などの効果に対する期待が外れたものにすぎないし、被告らは、修行が幸福の実現に必要不可欠であると信じ、誠心誠意勧誘したものであり、脅迫や欺罔の意図はなかった。

被告らが、勧誘中に害悪を告知したことがあったとしても、それらは、いずれも、抽象的又は曖昧な告知にすぎないか、特に脅迫的、欺罔的告知ではなかったことを考慮すると、被告らによる勧誘行為は、社会的相当性の範囲内にあるというべきであるから、正当な宗教活動として、不法行為を構成しない。

2  被告らの責任

【原告らの主張】

(一) 不法行為

(1) 被告法の華及び被告アースエイド

被告法の華は、前記勧誘行為を、その中心となって推進してきた宗教法人であり、また、被告アースエイドも被告福永の著書を出版し、これに興味を抱いた読者に対し、「ゼロの力学本庁」を紹介するなどして、右行為に荷担してきたものである。

したがって、右被告らは、法人ではあるが、独自に民法七〇九条に基づく責任を負うといわなければならない。仮に、そうでないとしても、被告法の華は、被告福永、被告井本、被告星山、被告野添、その他の被告法の華のスタッフの使用者として、被告アースエイドは、被告星山の使用者として、それぞれ民法七一五条に基づく責任を負う。

(2) 被告福永

被告福永は、被告法の華の教祖かつ代表役員として、自ら又は被告法の華のスタッフをして、前記勧誘行為を行った。したがって、民法七〇九条又は同法七一九条に基づく責任を負う。

(3) 被告井本

被告井本は、被告法の華の理事かつ責任役員として、また、株式会社さくら新聞の代表取締役として、前記勧誘行為を企画、立案、推進、実行してきた。したがって、民法七〇九条又は同法七一九条に基づく責任を負う。

(4) 被告星山

被告星山は、被告法の華の理事かつ責任役員として、また、被告アースエイドの代表取締役として、前記勧誘行為を企画、立案、推進、実行してきた。したがって、民法七〇九条又は同法七一九条に基づく責任を負う。

(5) 被告野添

被告野添は、被告法の華の天仕かつ幹部として、「天声」を原告らに伝え、研修参加や物品の購入を勧誘してきた。したがって、民法七〇九条又は同法七一九条に基づく責任を負う。

(三) 不当利得

被告らの勧誘行為は、多額の金員獲得目的に、病気等の悩みを持つ原告らの不幸、窮状に乗じ、殊更その不安感、恐怖心をあおって、不相当に高額な金員を出捐させ、利得を図ったものであるから、公序良俗に違反し、原告らの出捐行為は、無効であるといわなければならない。

また、被告法の華は、物品の販売を法人の目的としていないから、原告らが物品を購入した行為については、その売買契約が被告法の華の目的外行為として無効である。

さらに、被告らの行為は、詐欺に該当するから、原告らは、その出捐にかかるすべての契約につき、平成一二年一月一三日の第一九回口頭弁論期日において、被告らに対し、これを取り消す旨の意思表示をした。

以上のとおり、原告らの出捐行為については、無効ないし取り消されたことにより、原告らは、被告らに対し、不当利得返還請求権を有する。

3  消滅時効

【被告らの主張】

(一) 原告①が最後に金員を出捐したのは平成五年三月であるが、同原告が訴訟を提起したのは平成九年四月である。

原告④及び原告⑤が最後に金員を出捐したのは平成元年であるが、同原告らが訴訟を提起したのは平成九年四月である。

原告及び原告が最後に金員を出捐したのは平成六年七月であるが、同原告らが訴訟を提起したのは平成一〇年三月である。

原告が最後に金員を出捐したのは平成六年三月であるが、同原告が訴訟を提起したのは平成一一年一〇月である。

(二) 右各原告らの出捐時から、いずれも三年が経過した。

(三) 被告らは、原告①、原告④、原告⑤、原告及び原告の各請求につき平成一二年一月一三日の第一九回口頭弁論期日において、原告の請求につき平成一一年一一月一二日の第一八回口頭弁論期日において、それぞれ消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

【原告らの主張】

(一) 不法行為に基づく損害賠償請求について

右原告らは、被告らの行為について、不法行為の成否、被告法の華の使用者責任の成否などの法律的問題について知識を持たず、また、被告アースエイドの存在及び被告法の華との関係、被告らが組織的に金員の獲得を行っていた実態等の事実関係についても、自らの体験のみでは容易に判断できなかったのであり、法律的知識を有し、また、多くの事例を収集し、整理、分析をしていた原告ら訴訟代理人のもとに法律相談に赴き、右の点について説明を受けた時点で、初めて、被告らの不法行為により損害を被ったことを知り得たというべきである。したがって、いずれの原告についてもその損害賠償請求権は時効消滅していない。

仮に、そうでないとしても、右原告らが被害の事実を容易に知り得なかったのは、被告らが、行為主体や研修の性格などの点を意図的に隠蔽、かく乱し、曖昧化してきたためであるから、被告らが消滅時効を援用する旨の意思表示をすることは、権利の濫用であり、許されない。

(二) 不当利得返還請求について

原告らは、予備的に、詐欺による取消(民法九六条一項)等に基づく不当利得返還を請求するが、右取消権を行使し得るのは、欺罔行為による錯誤から脱した時であり、本件では、前記(一)と同様、原告ら訴訟代理人から説明を受けた時点であるから、一〇年の消滅時効が成立する余地はない。

第三  争点に対する判断

一  被告らについて

前記争いのない事実及び証拠(甲A八の2、二五、二六、四七、被告福永本人、被告星山本人、被告野添本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告法の華は、静岡県知事の認証を受けて、昭和六二年三月二六日に設立され、同県富士市に「天声村」と称する大規模な宗教施設を置く宗教法人である。被告法の華の目的は、「南無天法地源如来行」を本尊とし、教義(「南無天法地源如来行」を通じて法師に啓示される「天声」を崇啓し、その「天声」に従って三法行を行じ、家系を正し、更に天行力を源かして自己の心身安定と錬磨に努め、もって完全円満なる人格を目指し、幸せな家庭及び平和な社会を形成すること。)を広め、儀式行事を行い、信徒を教化育成することを目的とし、その目的を達成するために必要な業務を行うものとされている。

2  被告福永は、被告法の華を起こした者で、その教祖かつ代表役員である。

3  被告アースエイドは、平成二年九月一三日に設立され、出版及び雑誌の企画、編集、制作及び販売、並びに広告及びイベントの企画、設計、制作、運営及び実施等を主たる事業目的とした株式会社である。

主な出版物には、「病苦を超える最後の天行力」など、多数の被告福永の著書があり、被告法の華の布教機関として機能していた。また、本件著書の読者が被告アースエイドに電話をかけてきた場合は、内線で「ゼロの力学本庁」に電話を回し、そこで被告法の華のスタッフに勧誘させる等の活動をしていた。

4  被告井本は、被告福永の実母で、被告法の華の機関誌を発行する株式会社さくら新聞社(東京都渋谷区松涛〈番地略〉)の代表取締役であり、被告法の華の理事かつ責任役員である。

5  被告星山は、被告アースエイドの代表取締役であり、被告法の華の理事かつ責任役員である。

6  被告野添は、被告法の華の「天仕」(被告らの主張によれば、自分の徳積みのために、被告法の華の仕事をする人を指し、被告法の華から天仕料として金員を得ている。)と呼ばれるスタッフの一人で、天声講師の地位にあり、原告らに対して積極的に勧誘行為を行った者である。

二  各原告の被害態様について

1  原告①(原告番号①。以下「原告①」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B一の1ないし8、原告①本人)並びに弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告①は、住所地において農業を営んでいたが、長男であるA(以下「A」という。)が、高校二年生のころから精神分裂病を患っており、五つの病院に診てもらったにもかかわらず、一向によくなる気配がないため、Aの将来に不安を覚えるとともに、このままAが結婚できなければ、孫もできずに①'家が途絶えしまうのではないかと考え、悩み続けていた。

(二) 被告福永及び被告法の華を知った端緒(以下「端緒」という。)

原告①は、平成四年七、八月ころ、週刊誌の広告欄で、被告福永の著書につけられていた「どんな病気でも治る」という謳い文句を目にして、Aの精神分裂病も治るかもしれないと思い、被告法の華の東京事務所に電話したところ、長男とともに上京して、被告福永の足裏診断を受けて、同被告の話を聞くように言われ、Aとともに上京した。

(三)(1) 足裏診断

原告①は、東京都渋谷区にある被告法の華の施設である松涛会館(以下「松涛会館」という。)を訪れ、足裏診断料三万円を支払ってAの足の裏を診てもらったところ、被告福永は、「これは薬の影響がだいぶ出ておる。このまま放っていては大変なことになる。」と言い、その原因は「五代前からの先祖の因縁である。」と告げた。原告①は、被告福永がイギリスのサッチャー元首相と会談したことを聞かされており、それほどの人物であるならば、特別な力の持ち主であるに違いないと信じ込んでいたため、これを聞いて、このままではAの病気が悪化するのではないかと不安を覚え、さらに、被告法の華のスタッフから、「研修を受ければ、先祖の生き様が断ち切られ、Aの病気が治る。」と勧められたため、天声村での一泊二日の研修を受けることを決心し、参加費用一〇万円を支払い、平成四年九月一九日から同月二〇日にかけての研修に参加した。

(2) 研修(一泊二日及び四泊五日)

原告①は、主に「七観行」を唱える内容の研修後、被告福永による足裏診断を受けたところ、被告福永は、「このまま放っていたら、一家全滅じゃ。」などと言い、さらに、被告法の華のスタッフは、一泊二日の研修の勧誘と同様、四泊五日の研修を受ければ、Aの病気が治ると勧めた。原告①は、右研修の内容は聞かされず、参加費用の二二六万円は高いと思ったが、被告福永の言葉により、原告①家の家系が途絶えるのではないかと不安と恐怖を覚え、また、四泊五日の研修を受けることでAの病気が治るのであればと考えたため、平成四年一〇月二四日から同月二八日にかけての研修に参加した。

研修の内容は、事前に教えられることはなかったが、研修に参加したところ、「七観行」を唱えることのほかに、駅の通路で四〇分間土下座をして頭を地面につけるもの、二四時間一睡もしない「二四時間行」等があり、右期間中の平均睡眠時間は三時間位であった。また、指導員が参加者の子供を叩く場面もあった。原告①は、疑問に思いながらも、これをやり遂げないとAの病気が治らないと考え、最後まで研修を続けた。

(3) 研修後の「天声」

原告①は、研修終了後、被告福永から「天声」が出たとして「天声の間」に呼び出され、「家の中心」を定め、「法説行」をすれば、Aの病気が治る旨の「天声」を伝えられ、引き続き、被告野添から、「家の中心」とは、掛け軸を購入することで、その値段は三三三万円であること、また、「法説行」とは、般若天行を写経することであることの説明を受け、右購入を執拗に勧誘された。原告①は、「家の中心」の値段が高すぎると思い、即答を避けようとしたが、被告野添から、すぐに決断しないと効果がないこと、これを購入しないと研修の効果もなくなることを告げられ、さらに、後日、徳島から被告法の華の関係者である森が訪れ、「掛け軸を購入すれば、全然変わってくる。」などと勧誘したため、最終的に購入することを決意した。

その後、平成五年三月八日、被告野添が、突然原告①方を訪問した。原告①がAの病気がよくならない旨を伝えると、被告野添は、「天納(天に金員を納めること)」をすれば病気が治る旨明言し、被告法の華に三〇〇〇万円納めることを勧め、他にも天納をして効果が現れた人がいる例を話した。原告①は、金額が高額であることから躊躇していたが、被告野添が明言したことや、三〇〇〇万円も出せば、何か特別なやり方等によって治療してもらえるのではないかと考えたこと、また、被告福永が同原告に直接電話をかけてきて、Aの病気が治るかのように告げたため、同原告は、被告福永に対し、「天納」を承諾する旨伝えると、被告福永は、「すごいですね。必ず答えが出ますよ。」と述べた。原告①は、妻名義の貯金を解約したり、保険を担保に農協から借り入れたりして、右金員を準備し、被告法の華に送金した。

(四) その後

原告①は、その後も、被告福永や被告野添の「治る。」という言葉を信じて、「法説行(写経)」を続け、三〇〇〇巻書き続けたが、平成八年一月に、Aが暴れて警察に保護されるという事件が起き、研修や掛け軸の購入等の効果が出ていないばかりか、Aの病気が悪化していることを知り、被告法の華に騙されていたことに気付いた。

2  原告②(原告番号②。以下「原告②」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二の1、2、証人長坂信一、原告②本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告②は、住所地においてアパート経営等をしていたが、平成六年ころから、三七度三分から三七度五分の微熱が続き、複数の病院の診察を受けたが、原因が不明であったため、自らの健康に不安を感じ、死んでしまうのではないかとまで思い詰めていた。

(二) 端緒

原告②は、ちょうどそのころ、被告福永の「病苦を超える最後の天行力」という著書の広告につけられていた二〇〇〇何年に世の中が滅びるという見出しに興味を抱き、右著書を読んだところ、そこには地球環境の終末論や病気のほとんどが個人の生き様に原因があること、四泊五日の研修があること等が書いてあり、地球環境に関心を持っていた同原告は、一層興味を抱くとともに、自らの原因不明の微熱も、自分の生き様に関係があるのかもしれないと思うようになった。

(三)(1) 足裏診断

原告②は、平成六年三月一三日、被告アースエイド福岡支社に電話をかけたところ、ちょうどその日に足裏診断が行われていることを教えられ、会場となっていた博多駅近くのグリーンホテルに行き、一万円を払って足裏診断を受けた。

診断者は、「足の裏がすごく汚れている。早死にする。長生きできない。」などと言い、その原因については、「先祖が地獄に近いところに落ちている」からであると言った。原告②は、自分の体調を言い当てられたものと思い、また、平成三年に離婚した自分のことや長男が以前に自閉症気味であったことも、右の因縁が影響しているのではないかと考えた。原告②は、さらに、「頭を取る必要がある。」、「研修を受ければ大丈夫だ。」、「それで先祖も救われる。」などと言われた。

原告②は、一〇〇万円の研修費用は高いとは思ったが、ちょうど数日前一〇〇万円の貯金をしたことや、三年前のちょうど同じ日に離婚したことに因縁めいたものを感じるとともに、研修の内容は教えてもらえなかったものの、重病の患者も参加していると聞かされたことから、右費用を払って、平成六年三月一九日から同月二四日までの研修に参加することを決意し、被告法の華に一〇〇万円を送金した。

(2) 研修

研修は、平成六年三月一九日から同月二四日までの四泊五日で、天声村において行われたが、同所では、まず、荷物をすべて預けさせられた。

研修内容は、「二四時間行」、「苦の行」や般若天行を唱えたり、写経をしたりするもののほかに、公園で大声で「湧かしあい(二人一組になってどなり合ったり、罵り合ったりするもの)」をするもの等があり、食事は費用の割に粗末であったし、平均睡眠時間は三時間程度で、しかも、雑魚寝であった。また、研修全体を通じて私語が禁止された。右研修は、微熱が続いていた原告②にとっては、過酷なものであった。

(3) 研修後の「天声」

原告②は、研修終了後、被告福永から、五代前の先祖が落ちているので「家の中心」を定め、「解脱法納(被告福永の手形が入った色紙)」をすれば、今後は人も金も集まり、家が繁栄する旨の「天声」を伝えられ、引き続き、被告法の華の女性スタッフから、「家の中心」は三三三万円、「解脱法納」は一〇〇〇万円かかることを説明され、さらに、「払えないはずはない。払えるからこそ天声が出た。」などと執拗に勧誘され、返事には一か月に満たない期限を切られた。

原告②は、研修参加費用の支払だけで終わると思っていたので驚いたが、研修によって「天声」には逆らえないものと思い込まされており、何よりも研修に参加した目的が達せられないので、努力するしかないという気持ちになり、福岡に戻った。その後も、被告法の華の女性スタッフから何度も電話で勧誘されたこともあって、結局、株を売却して五〇〇万円を用意し、母親から八三三万円の援助を受けて、右代金等を準備して送金した。

その後、原告②は、「行職員」として、被告法の華の活動に参加していたが、平成七年の春ころ、被告福永の直筆の速達が送付され、「天声」と題する書面には、原告②が「仏舎利(被告らが、被告福永が、インドで、釈迦の頭の骨の一部である米粒大の仏舎利をもらい、これに集中天行力を百日間当てたところ、百個に増えた、さらに、全国の七〇名にこれを与えよとの「天声」が下りたと称するもの。)」を受ける地域救済者の一人に選ばれた旨書かれてあった。同原告が被告野添に問い合わせると、同被告から、「天があなたを選んだ。」、二〇〇〇万円が必要であるなどと言われた。

原告②は、七〇人のうちの一人に選ばれたことを名誉に思う反面、右金額の高額さに驚き、迷ったが、被告福永には特別な力があると信じていたため、右「仏舎利」の話も信じてしまい、また、亡父の遺産であった株を売れば二〇〇〇万円は準備できそうであったこと、「天声」には逆らえないという畏怖心から、結局、右「仏舎利」を購入することとし、二〇〇〇万円を送金した。

(四) その後

原告②は、「天声」の内容に一貫性がないこと等に疑問を抱くようになり、平成七年の秋ころ、行職員を辞めた。さらに、同原告は、その後、知人であった被告法の華の○○支部長が自殺したことを聞き知り、○○は、支部長として被告福永や被告法の華の教義を熱心に実践していたにもかかわらず、自殺したことから、被告法の華に対する不信感が決定的となった。

3  原告③(原告番号③。以下「原告③」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B三の1、原告③本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告③は、住所地において、専業主婦として夫、子供と暮らしていたが、極度のあがり症のため、人前で緊張してしまうことを長年悩んでおり、これが原因で、勤務していた農協も四年で辞めてしまったほどであったが、診療所で受診しても、特に異常はないとの診断であったため、ずっと一人で悩んでいた。

(二) 端緒

原告③は、平成八年二月ころ、「五七億人の法行力」、「二〇〇一年人間はこう変わる」等の被告福永の著書を購入した。右著書には、「天行力をあてると一八〇度、人間が変わる。」、「四泊五日の研修に参加しさえすれば、すべての悩みが解決する。」などと書かれていたため、原告③は、自分の悩みも治るのではないかと思い、著書のアンケート用紙に書かれていた被告法の華の九州支局に電話をしたところ、福岡市のホテルで説明会があるから来るよう誘われ、行くことにした。

(三)(1) 勧誘

平成八年二月上旬に行われた説明会では、右九州支局のスタッフが、自らの経験談と称して、「気分がすかーっとなって、何も考えなくなる。」、「プラスのことしか考えなくなる。」など研修のすばらしさを強調して説明し、研修への参加を勧誘した。なお、宗教ではないことは、事あるごとに説明された。

原告③は、右説明会で興味を抱いたので、数日後、右九州支局に赴き、「天行力手帳(被告福永が毎日天行力を送ることにより、これが伝わるとされている手帳)」等の「三法行セット」を五万円で購入し、また、その後研修に参加してみたいという気持ちも強くなったため、同年三月ころ、右九州支局を訪れ、研修内容の説明を求めた。右スタッフの○○支部長らは、説明すると頭で考えてしまうから説明はできないとして、参加費用が二二五万円であることしか説明しなかったが、原告③は、被告福永の著書を読んだ印象から、天声村で研修をすれば、自分の悩みを解決してくれるものと考え、右著書には、被告福永が、国連でスピーチをしたり、外国の代表と会談した人物であると紹介されており、人を騙すような人物とは思えなかったことから、右研修に参加することを決意した。また、○○支部長らは、原告③の娘も参加すれば、右脳が発達して、塾に行く必要がなくなり、稽古事も上達するとして、その参加(費用は一〇〇万円)を勧めた。原告③は、一人で研修に参加することに不安を感じていたため、娘も研修に参加させることとし、娘と二人分の参加費用三二五万円を右九州支局に持参し、また、娘の分の「三法行セット」を五万円で購入した。

(2) 研修

原告③は、平成八年四月中旬ころ、天声村において、四泊五日の研修に参加したが、研修の内容は、七観行を唱え、机を叩いたり、何かを唱えながら全身の力を振り絞るようにして一部分を雑巾掛けするものや、「湧かしあい」等であり、指導員から監視され、怒鳴られたりもした。大勢の人達の前では極度に緊張してしまう原告③にとっては、いずれの研修も耐え難いものであり、とんでもないところに来てしまったと後悔した。結局、原告③は、研修二日目の夕方、指導員に対し、研修をやめて帰宅したい旨申し入れたが、「子供が頑張っているのにお母さんがやめるとは何事ですか。」などと言われ、何度頼んでも、帰宅することは許されなかった。

原告③は、研修の最終日に、指導員から「頭が取れた。」と言われたが、自分自身では何も変わった実感がなかったので、かえって、被告法の華に対する不信感を強めた。また、研修終了後、他に一人参加者を勧誘しなければならない旨指示された。

(四) その後

原告③は、研修において被告法の華に対する不信感を持っていたため、「天声」を聞きに来るように指示されても、参加しなかったが、その後被告法の華のスタッフの服部に「天声」の内容を確認したところ、掛け軸を六〇〇万円で購入するというものであったということであり、被告らの行為は金目当てであると確信するに至った。

4  原告④(原告番号④、以下「原告④」という。)及び原告⑤(原告番号⑤、以下「原告⑤」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B四の1、五の1、原告⑤本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑤は、中学生の時にいじめられ、神経症(不潔恐怖症)気味であったが、さらに、昭和六三年四月、交通事故により右足を複雑骨折した際、手術に失敗して障害を残し、杖なしでは歩けない状態であった。また、一八歳から二六歳まで、トランペットで身を立てようとプロを目指したが、その夢も挫折したこと等が原因で、精神科医に通院するような状態であった。

原告④は、原告⑤と二人暮らしをしながら、亡夫の遺産で貸家業を営んでいたが、跡取りである原告⑤の右状態を心配していた。

(二) 勧誘

(1) 同原告らは、平成元年九月ころ、同原告らが貸している店舗の借り主であり、被告法の華の大分支部の幹部であった藤本照雄(以下「藤本」という。)が、同原告らの悩みを聞きつけ、被告法の華の研修を受けるように数一〇回にわたり勧誘した。被告法の華の福岡支部の佐藤という女性も、三回ほど勧誘に訪れた。そして、右両名は、いずれも、「研修を受けさえすれば、歩けるようになるし、立派な跡取りになる。」、「お母さんも参加すれば、治りが早い。」などと言って、研修への参加を勧誘した。

(2) さらに、被告野添も勧誘に訪れ、同原告らに対し、「五代前の先祖に悪いことをした人がいる。」、「あなたのお父さんは軍人なので、戦争で人を殺した因縁があなたたちに恨みとなってきている。」などと説明し、原告⑤が手術を失敗したことや、トランペットのプロになる希望が叶わなかったこと、女性に対して自信が持てないこと等の悩みは、すべて先祖と父の罪を負わされているからである旨説明した。

被告野添は、午前一〇時ころ訪問しては午後五時ころまで勧誘を続け、その口調も大声で、絶対うまくいくなどという断定的なものであったが、原告⑤が、癌が治った人がいるのであれば会わせて欲しいと言うと、急に帰ると言い出す始末で、このまま帰れば右原告らは救われず、足はもっと悪くなるし、永遠に結婚もできないなどと言った。

さらに、被告野添は、原告④に対して、「五代前の先祖が代を潰そうとしている。」、「アパート経営、財産も失ってしまう。」などと言い、原告④と一緒に研修を受けないと意味がないなどと言った。

結局、同原告らは、研修に参加することにした。なお、原告⑤としては、財産が守れるなどということからして、経営のノウハウ等を学ぶセミナーのようなものと考えていた。

(3) 同原告らが、研修に参加する旨を伝えると、前記佐藤が訪問し、早く振り込まないと、また、早く研修に参加しないとなどと急がせ、銀行まで同行して定期預金を解約させ、同原告ら二名分の参加費用二四〇万円を振り込ませた。

(三) 研修

(1) 同原告らは、平成元年一一月ころ、当時東京の池袋にあった被告法の華の施設での研修に参加した。

研修の内容は、ゼッケンのようなものを付けさせられ、池袋の駅前で午後四時から翌朝五時まで被告福永の著書を売らされたほか、「最高です。」などと息が続く限り叫ばされるものであり、同原告らは、大声が出ない等の理由で、それぞれ背中を叩かれたり、蹴られる等の暴行を受けた。特に原告④は、脊椎カリエスを患っており、叩かないよう懇願したにもかかわらず、五、六人で取り囲み、三人で蹴るというものであった。

(2) 同原告らは、結局、研修四日目の夕方に逃げ出し、原告⑤の知人宅に逃げ込んだ。そして、右知人から被告法の華に連絡をしてもらい、荷物を返すという約束を取り付けたが、翌日荷物を取りに行ったところ、部屋に監禁され、「皆が頑張っているのに恥ずかしくないのか。」などと口々に罵られた。結局、原告⑤が隙を見て逃げ出し、警察に助けを求めて、原告④を連れ出した。

(四) その後

同原告らは、その後も、平成六年七月、藤本に対して賃貸していた不動産を売却するまで、藤本から、「研修を最後までやれば、絶対うまくいく。」などと再度研修の参加を勧誘されたり、会員便りが送られたりした。

同原告らは、研修での暴行や監禁等から、被告らに恐怖心を抱いており、藤本との関係が断ち切れなかったため、被害を申告できずにいたが、マスコミで被告法の華に関する報道を知り、弁護団に問い合わせた。

5  原告⑦(原告番号⑦、以下「原告⑦」という。)及び原告⑧(原告番号⑧、以下「原告⑧」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B七の1ないし4、原告⑦本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑦は、平成七年一〇月ころ、酒卸売業を営む株式会社⑦'の三代目社長であったが、業績不振、リストラ等、会社の経営に苦しんでいた。

その妻である原告⑧は、原告⑦とは再婚であり、同居していたその親との関係もうまくいかず、子供も二度流産する等、家庭問題に悩みを抱えていた。

(二) 端緒

原告⑦は、友人から、被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」をもらって読んでみたところ、能力開発のような印象で、その内容に何となく興味を抱いたため、右著書の末尾に記載されていた連絡先である「ゼロの力学本庁」に電話すると、被告法の華の福岡支部を紹介され、同支部に電話すると、佐賀市のふれあい公民館に来るよう誘われた。

(三)(1) 勧誘

右公民館では、被告福永が登場するビデオを見せられたが、同被告は、そのビデオの中で、頭が取れると瓶のふたを開けたように体中から能力があふれ出てくる旨説明していた。その後、牟田口支部長から、経験者の話を聞くために、唐津市内にある天ぷら屋「菱」に行くように言われた。同店の主人は、それまでは勤めていたが、急に独立できて、金はなかったが、現在の場所を安く借りることができたなどと、商売が順調にいっているかのような経験談を話し、足裏診断を受けるよう勧誘した。

(2) 足裏診断

同原告らは、福岡支部に赴き、被告法の華の新瀧浩一(以下「新瀧」という。)から足裏診断を受けた。

まず、原告⑦は、新瀧から、「踵が汚れている。」、「あなたやあなたの会社の将来が危ないということです。」などと言われ、原告⑧は、「足の裏が黄色い。」、「血が汚れているということであり、このままでは子供などできない。」、「これは頭を取るしかない。頭を取るためには研修に行くしかない。」などと言われた。

原告⑦は、研修内容は説明してもらえなかったものの、前記の被告福永の著書から受けた印象やビデオでの説明から、能力開発セミナーの類であろうと推測し、参加費用を尋ねると、一人二五五万円であると説明されたので、原告⑦が用意できないと言うと、「自分も行ったけれども、友達にも頭をどんどん下げに行きなさい。」、「一人、二人断られても、必ずできます。今からすぐ走ってください。」などと、借金してでも費用を準備すべきである旨言われ、さらに、「二四時間以内に用意しないといけない。」、「研修に行かないと大変なことになる。」、「一度断ると、もう受けられなくなる。」などと言われた。

原告⑦は、研修に行かないと会社が倒産するという意味であると受け取り、また、原告⑧も子供のことで悩んでいたので、研修に行かなければならないと思うようになり、原告⑧の親や友人から借金して、参加費用を準備し、右費用を支払った。

(3) 研修

同原告らは、平成七年一〇月二八日から同年一一月三日までの間、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「苦の行(被告福永が、暗闇の中ではちまきで目隠しをして正座した参加者に対し、気を送り続けるというもの。)」等であり、また、研修の最終日には、頭が取れたかどうかを判定する合格判定会が行われたが、そこに被告野添が登場し、激しい形相で怒り、テーブル等をひっくり返すなどし、被告福永も、「そんなことでは駄目だ。」と大声で怒鳴りつけるなどして参加者をあおり立て、異様な雰囲気であった。同原告らは、互いに話をすることもできず、同じことを繰り返し言われ、行動させられ続けていくうちに、正常な判断ができなくなった。

(4) 研修後の「天声」

研修終了後、同原告らは、被告法の華の佐賀支部の担当者から連絡を受け、「天声」が出ているので聞きに来るように言われたので、アドバイスがもらえるものと思い、博多駅前のグリーンホテルに行った。そこには、被告野添が、被告福永の代理と称して来ており、「天声」として、「自分の中心(自分の肚が据わるとされているもの。)」、「人間社長(会社の社長だけでなく、人間としても社長になれるとされているもの。)」、「家の中心」、「水子法納(子供に恵まれるとされているもの。)」が伝えられた。

原告⑦は、これらが研修の結果であると解釈して安心したが、続けて一〇〇〇万円を超える金額が示されたので、驚いて、とても払えないと言うと、被告野添は、「私も払えないと思ったけれども、知り合いに頼んだら、なぜか貸してくれたし、なぜかすぐ返せた。」などと言って執拗に勧誘し、反面、「天声」に応じないときには、「会社が駄目になる。」、「子供ができない。」などと言い、新瀧も、「天声に沿わないと大変なことになる。」、「天声に沿えばすごいんですよ。」などと繰り返し言った。

結局、同原告らは、会社から借金をして、原告⑦が一〇六〇万円(うち「人間社長」として一〇〇〇万円、「自分の中心」として五〇万円、「三法行セット」として一〇万円)、原告⑧が三三三万円(うち「家の中心」として二三三万円、「水子法納」として一〇〇万円)をそれぞれ支払った。

(四) その後

原告⑦の会社経営の苦況は変わらずにいたところ、平成八年一月、被告野添から連絡が入り、前記「菱」に会いに行くと、被告野添から、被告福永の直筆の書面で、「最高の徳積み人類救済大賞」という「天声」が出たことを伝えられた。被告野添は、「とにかくすごい。」を繰り返し、これを受けるには一億円である旨の説明をされたが、原告⑦が、高いので無理である旨返事をすると、とりあえず三〇〇〇万円だけでも支払うよう勧誘された。原告⑦が、右勧誘を明確に拒絶すると、以降、被告法の華からは一切連絡がこなくなったため、原告⑦は、被告法の華が金目当てであったことを確信するようになった。

6  原告⑨(原告番号⑨、以下「原告⑨」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B九の1ないし3)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑨は、住所地で一人暮らしをしている年金生活者であり、脳梗塞で二回入院したことのほかに、喘息と高血圧の持病に悩まされていた。

(二) 端緒

原告⑨は、平成七年五月、福岡市天神の街頭で、被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を手渡されたが、ちょうど前記脳梗塞の治療のために病院に通っていた時期であったため、「病苦を超える」という題名に興味を抱き、目を通した。右著書には、被告福永が「天行力」によって癌を治し、「天行力」がエイズ等にも効果があることや、八歳の娘の癌が治ったという体験談が書かれていたため、癌やエイズでさえ治るのであれば、脳梗塞の後遺症や高血圧も治るのではないかと考えた。

(三)(1) 足裏診断

右のとおり、興味を抱いた原告⑨は、右著書の末尾に記載されていた連絡先に問い合わせると、博多駅前のサンライフビルで行われる説明会に参加するよう誘われた。同原告は、平成七年五月二二日、右説明会に行き、勧められるままに足裏診断を受けると、被告法の華のスタッフから、「いつ死ぬか分からない状況ですね。よく生きてこれましたね。」などと言われ、さらに、「研修を受けさえすれば、問題ありません。」と研修への参加を勧められた。同原告は、右勧誘に宗教的なものを感じたため、宗教ではないかと確認したところ、「宗教ではありません。」、「参加していただければお分かりになります。」などと返答されたため、研修に参加することとし、知人から借金をして一三〇万円を準備した。

(2) 研修

原告⑨は、平成七年五月二七日から四泊五日、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、紙に書かれた言葉を大声で読み上げるもの、一対一で向き合い、お互いに大声で罵倒し合うもの、足踏みをさせられて「最高です。」と叫ぶもの等であり、私語を禁止され、睡眠時間も三、四時間であり、高血圧の持病がある原告⑨にとっては、非常に過酷なものであり、ふらついたり、声が出なかったりすると、指導員に怒鳴られたりした。

(3) 研修後の「天声」

研修終了直後、原告⑨は、「天声」が出たという連絡を受けたので、あれだけ苦しいことをしたのであるから、聞きにだけ行ってみようかという気持ちになり、博多駅前のホテルに行った。そこで、被告野添は、原告⑨に対し、「天声」は「家の中心(二三三万円)」と「法説行(一〇〇万円)」であり、「家の中心に応えると、すべてがうまくいきます。」などと言った。同原告は、すべてがうまくいくとは、体調がよくなることであると理解しつつも、あまりの高額さに躊躇していたが、被告野添から、天授式が平成七年六月一〇日にあるので、それまでに支払うように言われ、再び知人から借金をして、右金員を準備した。

(四) その後

原告⑨は、被告野添の指示どおり、三三三万円を準備して、天声村における天授式に参加したが、被告福永の服装や登場の仕方があまりに虚栄に満ちていたため、急に騙されたのではという感覚を抱き、不信感を持つようになった。

その後、被告野添から、三〇万円を支払って支部長になって欲しい、払えないなら立て替えてもいいなどと繰り返し電話で勧誘され、耐えかねた原告⑨は、払えば気が済むだろうと考え、三〇万円を支払ったが、支部長にはならなかった。

7  原告⑫(原告番号⑫。以下「原告⑫」という。)

前記争いのない事実及び証拠(甲B一二の1、2、原告⑫本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑫は、平成七年ころ、×××大学の四年生に在学し、父、姉、祖母と暮らしていたが、当時、就職が決まっておらず、父親とは不和の状態にあった。また、同原告の母親は、同原告が九歳の時に胃癌で死亡しており、父親も平成六年ころにくも膜下出血で倒れ、当時退院したばかりであった。

(二) 端緒

原告⑫は、平成七年八月上旬ころ、当時交際していたB(現在の妻)から、自分が参加した研修に参加することを勧められ、アースエイドと表示してあった被告法の華の北九州支局を訪問した。その時は、就職試験に役立つ自己啓発セミナーのようなものであろうとしか考えていなかった。

(三)(1) 足裏診断

右北九州支局では、原告⑫は、まずアンケート用紙に自分の就職のこと、母親が癌で早逝していることを含め、家族の状況等を記入させられ、五〇〇〇円を支払って、足裏診断を受けたところ、足裏診断士と名乗る長坂信一(以下「長坂」という。)から、足の指が黒爪になっていること、足のくぼみに小さな塊があることを指摘され、「やっぱりあなたも癌になるよ。」、「器が小さい。」、「家の生き様が悪い。」などと言われたため、原告⑫は、両親の状況や就職が未定であったことから、急に不安を感じた。

さらに、長坂からビデオを見せられ、何も感じないと答えると、「頭がついているからです。」などと言われ、研修の参加を勧誘されたので、就職試験を理由に断ろうとすると、「研修を受けなければ就職なんかできない。」、「ろくなところに就職できないよ。」などと二時間余り、研修に参加することを執拗に勧誘された。そして、同原告が、参加費用を尋ねると、長坂は、被告福永によって決められるなどと言って、電話をとり、誰かと話した後、一三〇万円と指示された旨述べた。

同原告は、自己啓発セミナーならば、一〇万程度であろうと推測していたので驚き、学生であるからとても払えない旨答えると、「借金してでも払いなさい。」、「三日間で作りなさい。三日がだめなら一週間で作りなさい。」などと言って決断を迫られたので、診断内容に不安と恐怖を感じていた同原告は、研修に参加することを決意し、その場で三〇〇〇円を支払った。その後、同原告は、祖母から借金をして、一二四万七〇〇〇円を支払った。

(2) 研修

原告⑫は、平成七年八月二四日から同月二八日までの間、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「苦の行」や「般若天行」を大声で唱えるものであり、最終日には、五〇人以上の参加者に取り囲まれ、「頭が取れた。」と言うまで約一時間にわたり、罵られたり、押されたりした。また、研修後には、あと一人研修に勧誘するよう指示された。

(四) その後

原告⑫は、研修終了後、「天声」を聞きに来るよう指示され、研修の内容自体にはその途中から疑問を感じてはいたものの、何か人生の指針になるようなことくらいは聞けるかもしれないと思い、博多駅前のサンライフホテルに行った。しかし、被告野添から、「家の中心」等合計三九三万円を支払うよう言われたため、被告法の華が金目当ての団体であると気付き、その場では表面上承諾したものの、結局支払わなかった。

8  原告⑬(原告番号⑬。以下「原告⑬」という。)

前記争いのない事実及び証拠(甲B一三の1、原告⑬本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑬は、平成七年当時、不動産会社の事務員として稼働しつつ、船員の夫と娘の三人暮らしであったが、先天性の股関節脱臼症という持病を抱えていたため、長時間歩くことができず、また、人前で顔が赤くなることもあって、対人恐怖症からくる自律神経失調症になり、病院に通ったりもしたが、そのことを悩むあまり、死にたいと思い詰めたこともあった。

(二) 端緒

原告⑬は、平成七年九月、佐賀市内で無料配布されていた被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」をもらって読んだところ、今抱えている問題がすぐに解決し、病気が一度で治るようなことが書かれていることに興味を持ち、「ゼロの力学」の北九州支局に電話したところ、佐賀市内の公民館で説明会が開催されるので、そこに来るように誘われた。

(三)(1) 説明会

原告⑬が右説明会に行くと、佐賀支部長の牟田口からビデオを見せられ、「三法行」や自意識、潜在意識について説明を受け、これで自分の対人恐怖が解決できるかもしれないとの希望を持った。同原告は、三法行セットを五万円で購入したが、さらに、唐津市の「あさなる会」という集会に誘われた。

(2) 「あさなる会」

原告⑬は、平成七年一一月ころ、右「あさなる会」に参加し、その主宰である東島伸子に悩みの内容とまだ研修に行っていない旨告げると、右東島から、「自分は、夜も眠れないような状態だったのに、研修に行ったらすっかり治った。」などと言われ、また、その場にいた研修の経験者からも、「研修に行ったら楽しくてたまらない。」、「今までの自分とは全く違うようになる。」などと聞かされた。同原告が、会社や子供のことがあるから研修には参加できない旨述べると、「会社も休めないようだったら、そういう会社にあなたは必要ない。」、「三歳の子供でも、ほったらかしにして来る人がいる。」などと言われ、二時間にわたり説得された。研修の内容は、行ってみて初めて良さが分かるからとして、教えてもらえなかったが、同原告は、著書やビデオの内容等からして、自己啓発セミナーの類ではないかと推測した。

原告⑬は、二日間ほど迷っていたが、そんなに変わるのであれば、これに賭けてみようかと思い、参加費用を教えてもらうと二五五万円であると聞かされ、高額であるのに驚いて牟田口に電話をすると、牟田口は、「研修が終わって、一歩外に出たら、見る世界が今までと違っていた。」などと勧誘し、さらに、夫と相談して決めたいと答えると、「今話しても分かってもらえないと思いますよ。それよりもあなたが変わった姿を見れば、その分の価値はあるんじゃないですか。」などと言って、夫と相談することを妨げた。

前記北九州支局の川島も原告⑬に電話をかけてきて、被告福永が同原告のことを気にかけている旨伝え、また、「支局にいる職員五人のうち三、四人はノイローゼだったんですから、絶対大丈夫ですよ。」などと言って、研修に参加することを勧めた。

原告⑬は、費用があまりに高額なことから、研修に参加することを迷ったが、自律神経失調症が治り、その後の人生が楽しくなるのであればと思い、夫に無断で研修に参加することを決心し、平成七年一一月二二日に一〇万円を、残金二四五万円については、貯金を解約して同月二四日に、それぞれ「ゼロの力学本庁」あてに送金した。

(3) 研修

原告⑬は、平成七年一一月二五日から同年一二月一日まで、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「七観行」をひたすら唱えるもの等であり、特に足に障害を抱える⑬に対し、「そんな足をしているのは、自分が甘えているからだ。」などといきなり怒鳴りつけられたりした。また、外部への連絡を禁止されていたため、会社と娘に一日一回は連絡すると約束していたが、することができなかった。同原告は、五日間の研修後、更に二日間、研修に参加する人を勧誘するための研修をさせられたが、それは、相手を自分の知り合いに見立てて、研修に行ったらすばらしかったので、是非行ってみるようになどと言わされるものであった。

(四) その後

研修終了後、原告⑬は、平成七年一二月三一日、前記北九州支局の佐藤から、「天声」を聞きに来るように言われ、一応聞くだけと思い、博多駅近くのホテルに行った。そこで、被告野添から、「家の中心」として二三三万円、「解脱法納」として三〇〇万円、合計五三三万円の「天声」に沿うように勧誘され、そのような金はない旨答えると、「できる数字だから、このような天声が出ているのです。」などと、借金してでも準備するよう言われたが、同原告は、研修に参加しても効果がなく、これ以上金を出す気もなかったので、右天声に応じることを拒絶した。

9  原告⑭(原告番号⑭。以下「原告⑭」という。)

前記争いのない事実及び証拠(甲B一四の1、2、原告⑭本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑭は、平成八年当時、以前勤めていた看護婦を辞め、アルバイトをしながら一人で暮らしていた。父親は、うつ病のため生活保護を受けており、三歳下の妹は知能障害のため、施設で生活していた。また、母親も、同原告が幼いころに離婚していたが、四年前に癌で死亡していた。このような状況で、同原告は、自分の将来に不安を抱いていた。

(二) 端緒

原告⑭は、平成八年七月ころ、被告福永の著書「結婚自由自在」を読み、悩みや不安には原因があり、これを解決する方法があること、癌になった人は、生き様が悪いからそのような結果になった趣旨の記述に興味を持ち、右著書にとじ込まれていた被告アースエイドあての葉書を出した。すると、連絡があって、福岡市の被告法の華の福岡支部に行くよう勧められ、同月三一日、右支部を訪問した。

(三)(1) 勧誘

原告⑭は、右支部で、杉林充英支部長(以下「杉林」という。)から、「頭を取らなければならない。」などと言われたが、よく理解できなかったため質問しようとすると、「本気で肚をくくってやる気のある人でないと、そこから先は教えられない。」、「今すぐここで肚をくくれ。」などと言われた。また、同原告は、以前に統一教会に路上で勧誘されたことがあり、宗教に対して警戒心を持っていたことから、宗教ではないかと確認すると、杉林は、宗教ではない旨答えた。同原告は、何か人生が変わるようなことでもあるのかと期待し、肚をくくる旨答えると、「あなたの気持ちを物質で示さなければならない。それも半端じゃない。二三〇万円を払って八月四日からの研修を受けなさい。」、「研修の効果は口で説明できないくらいすごいものです。」などと勧められた。同原告は、驚いて、そんな金はない旨答えると、杉林は、「一三〇万円でも頭を取ることはできる。」、「身内から借りてきなさい。」、「八月二日の郵便局が閉まるまでに、駆け回って作りなさい。」などと執拗に研修への参加を勧誘した。

結局、同原告は、杉林の説得に応じ、研修への参加を決意し、平成八年八月一日に六万円を同人に交付し、また、父親に借金があると嘘をつき、同人が同原告の妹名義でしていた貯金から借り入れ、翌二日に一二四万円を「ゼロの力学本庁」あてに送金した。

(2) 研修

原告⑭は、平成八年八月四日から同月八日まで、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「苦の行」や他人を大声で罵倒するもの等であり、また、指導員の態度も高圧的であった。研修の終わりには、被告法の華のTシャツを渡され、それを着て他人を研修に参加するよう勧誘して初めて行が完成すると言われた。

(四) その後

原告⑭は、その後も、障害者である妹名義の金を使ってまで研修に参加した意味を見つけたいという思いから、被告法の華の活動を家族ぐるみでしている人の話を聞きに行くなどしたが、その後、被告福永が、被告法の華に対する批判的報道に対して、批判をする人達はいずれ淘汰されると言ったことを伝え聞いて、あまりに自己中心的な考えであると思い、被告法の華に不信感を抱いた。

10  原告⑮(原告番号⑮。以下「原告⑮」という。)

前記争いのない事実及び証拠(甲B一五の1ないし5、原告⑮本人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑮は、平成六年当時、六八歳であったが、妻は、昭和五八年に突然原因不明の病気で下半身麻痺になった上、約一〇年間の闘病生活の後、平成四年一二月に死亡したため、一人暮らしであった。さらに、同じころ、次男と跡継ぎ問題で喧嘩をして絶縁状態となったり、亡妻の妹婿に一〇〇〇万円以上貸し付けたにもかかわらず、全く返済されない等、家族を巡るトラブル、不幸が相次いでおり、このような状況に悩んでいた。

(二) 端緒

原告⑮は、平成六年二月ころ、被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を読み、修行をして天行力を得れば、病苦等の苦しみを超えることができる旨の記述に興味を抱き、右書籍の出版元である被告アースエイドの北九州支社を訪れた。

(三)(1) 足裏診断

原告⑮は、福岡市中央区にあった被告アースエイドの福岡支部を訪れ、長坂に前記悩みを相談した後、足裏診断を受けた。長坂は、「かなり汚れている。」、「先祖五代前からの生き様が悪いから、次々と不幸になる。」、「すぐに研修を受けないと今まで以上に大変なことが起きるよ。」などと言い、さらに、「研修に参加すれば悩みはなくなる。」、「特訓で洗い流せ。」などと言って、研修への参加を勧誘した。そして、同原告は、参加費用として一〇〇万円、天行力手帳代金として二万円が必要である旨言われたので、高額であることを理由に断ろうとすると、長坂は、「一〇〇万円ですべてがよくなるなら安いものだ。」などと言い、同原告が考えさせて欲しい旨述べても、「三日後に研修があるので早いほうがよい。」などと言って、約三時間執拗に勧誘を続けた。同原告は、当初は研修を受ける気持ちはなかったが、次々と不幸が続き、不安な気持ちでいたこともあり、勧誘を受けているうちに段々と気味が悪くなり、参加した方がいいのではないかという気持ちになり、結局、研修に参加することにした。なお、同原告は、平成六年四月一四日、定期預金を解約して、右費用等を準備し、研修費用一〇〇万円及び手帳代二万円を「ゼロの力学本庁」あてに送金した。

(2) 研修

原告⑮は、平成六年四月一六日から同月二〇日まで、天声村での研修に参加したが、研修に際しては、荷物と所持金はすべて預けさせられた。

研修の内容は、ひたすら「七観行」、「般若天行」を大声で唱えさせられたり、唱えながら、雑巾掛けを一時間くらいさせられるもの、「湧かしあい」等であり、声が小さい参加者に対しては、指導員が怒鳴りつけ、泣き出す参加者もいた。同原告は、高齢者であった上に狭心症の持病を抱えており、睡眠時間も少なく、極度に疲労した。

(3) 研修後の「天声」

研修終了後、原告⑮は、「天声」を聞くため「天声の間」に連れて行かれ、被告福永から、「天声」と書かれた書面を読み上げられ、「頭がついていた。このままでは心身ともに不安定が続き、子供、子孫の繁栄につながらない生き様となり、人も金もつかない中途半端な人生となってしまう。よって、赤い糸に出会えない。自分や⑮家の家の中心が定まっておらず、足が地についていなかった。そのためには、六八年間の生き様と⑮家の大掃除をしなさい。」などと言われた。その後、別室で、被告野添から、「⑮家の大掃除をしなさい。」、「解脱法納代として一〇〇〇万円払いなさい。」などと言われた。

同原告は、あまりの高額に驚き、研修をすればすべてよくなると言われて研修に参加したのに、なぜ更に支払わなければならないのだと抗議すると、被告野添は、ものすごい剣幕で、「金がないならば、生命保険を解約するとか、借金してでも払いなさい。」、「もし解脱法納をしないと、奥さんのような不幸があなたの家族に次々と起こりますよ。」などと言い、さらに「解脱法納」が無理ならば、「家の中心だけでもしなさい。」などと言って、執拗に勧誘を繰り返した。

同原告は、再三妻の死を引き合いに出されて勧誘を受けるうちに、更に家族が不幸に襲われるのではないかという不安、恐怖に駆られ、極度に疲労した状態であったこともあり、支払うことを承諾し、平成六年四月二一日、老後の生活資金として準備していた定期預金を解約して、「家の中心」代として三三二万円、「赤い糸(これをすると結婚できるとされている。)」代として三〇万円、合計三六二万円を被告法の華あてに送金した。

(四) その後

原告⑮は、次男との関係修復や借金が返済されることを願って「法説行」等を続けたが、何ら変化はないままであったところ、平成八年三月号の雑誌「現代」で被告「福永法源の仮面を剥ぐ」という特集記事を読み、騙されていたことに気付いた。

11  原告⑯(原告番号⑯。以下「原告⑯」という。)

前記争いのない事実及び証拠(甲B一六の1、原告⑯本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑯は、平成六年当時、香川県綾南町に住み、平成元年から株式会社大成建設に勤めていたが、特に悩みがあったわけではなかった。

(二) 端緒

原告⑯は、平成六年三月ころ、知人の高島宏(以下「高島」という。)から、「法の華の研修に参加してとてもよかった。悩みがなくなる。」などと言われ、被告福永の著書を借りて読んだりしていた。同原告は、当時、特に悩みはなかったが、「一生が変わる。死ぬまで最高でいられる。」という高島の説明に興味を抱き、同年四月ころ、好奇心で高松市内の高松セレネで行われた講習に出かけた。

(三)(1) 足裏診断

原告⑯は、右会場で一万円を支払って、足裏診断を受けたところ、診断者から、「足の指が片一方はきれいだが、片一方は開いている。」、「あなたはすばらしいものを持っているが、お金を持っていても逃がしてしまう運勢だ。」、「この運勢を直すには、研修に参加するしかない。」などと言われた。同原告は、参加費用が一二五万円であると聞いて、その場では返答しなかったが、右診断者から、三回にわたって一時間ずつ、自宅に勧誘の電話を受け、高島からも勧誘を受けたため、研修の内容を教えてもらえなかったものの、自己啓発セミナーの類であろうと推測し、参加することにし、貯金の三分の一以上を取り崩して一二五万円を準備し、これを送金した。

(2) 研修

原告⑯は、平成六年五月二八日から同年六月一日までの間、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、まず、持ち物をすべて預けさせられた上で、「七観行」を絶叫したり、新宿の街頭で土下座をしたり、新宿、渋谷等で「二四時間行」をするものであった。その間、睡眠時間も短く、食事も粗末なものであった。

(四) その後

研修終了後、原告⑯は、「天声」として「家の中心」と称する掛け軸(三三三万円)を購入するよう勧められたが、改めてお金を払うことはおかしいと考え、これを拒絶した。

その後、平成六年七月にも集会に参加するよう誘われ、参加費五〇〇〇円を支払って参加したが、特に何も効果は感じられず、平成九年ころ、被告法の華に関する報道を見て、騙されたことに気付いた。

12  原告⑰(原告番号⑰。以下「原告⑰」という。)

前記争いのない事実及び証拠(甲B一七の1ないし15、乙一三、原告⑰本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑰は、平成七年当時、国家公務員で、住所地で妻と二人暮らしをしていたが、若いときから急性肝炎、交通事故による右眼球陥没、大腸ポリープ、食道静脈瘤などを患い、自らの健康状態に非常に不安を感じていたが、寝たきりの母の看護があることや、定年まで教職を勤めたいという希望から、何とかこれらの病気を治したいと考えていた。

また、同原告は、平成元年ころに次男と登校拒否の問題で喧嘩をしてから、次男及び妻との関係が悪くなってしまい、家庭不和にも悩んでいた。

(二) 端緒

原告⑰は、平成七年一〇月ころ、鹿児島市内のデパートで、被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」をもらって読んだところ、癌やエイズが治ったという記述に興味を抱き、右著書の末尾に記載されていた連絡先である「ゼロの力学本庁」に電話をすると、上京して被告福永に会うよう勧められた。同原告は、当時オウム真理教の事件が世間を騒がせていたこともあって、宗教には警戒心を持っていたことから、宗教ではないかと確認したところ、違う旨返答があったため、これを信じて右勧めに従うこととし、上京した。

(三)(1) 足裏診断

原告⑰は、平成七年一〇月中旬ころ、「ゼロの力学」宮崎支部の西牟田支部長に付き添われて、東京都渋谷区にある松涛会館に行き、まず、自分の健康状態、家庭不和等の悩みをアンケートに記入し、続いて被告福永の足裏診断を受けたところ、同被告は、驚いたような表情をし、大声で、「汚いな。すぐ死ぬような状況だ。」などと言い、さらに、座っている同原告に近づくと、頭の上に右手を乗せ、独り言のように、「これは悪いな。」とつぶやいた。同原告は、普通の医者ですら「死ぬ」という言葉を使わないのに、簡単に「死ぬ」と言われたことに驚き、また、死ぬほど体調が悪いとは自覚していなかったため、不安になった。

同原告は、引き続いて別室に通され、西牟田から、右診断は、天行力がほとんど流れなかったことを意味すると説明され、自分の体が悪いことを言い当てられたことに驚くとともに、落胆した。

(2) 勧誘

西牟田は、原告⑰に対し、紙を示しながら、「あなたの先祖の八七パーセントが地獄界にいる。一三パーセントが水子や自殺者で、浮かばれていない。」、「先祖の供養をしなければならない。」、「全然天行力が通らない人が鹿児島に一人いたが、研修を受けて、今ではきちんと生活しています。」などと言って、研修への参加及び先祖の供養を執拗に勧誘した。また、研修の費用は合計で二二五万円(先祖供養が一〇〇万円、研修費用が一二五万円)である旨伝えられた。

同原告は、研修内容は決まっていないとして教えてもらえなかったが、宗教ではないと説明されたこと、被告福永の著書の経歴に「生態哲学博士」とあったことから、研修は東洋医学による治療やセミナーの類であろうと推測したものの、費用があまりに高額であるため、即答を避けると、二四時間以内に返事をするよう催促された。

同原告が鹿児島に帰ってからも、西牟田は、「二四時間以内が無理なら、四八時間以内でも構いません。最悪ならば、七二時間でもいいです。」、「借金でもローンでも組んで、その時は空っぽになって金はないけれども、お金が欲しいと思った時期には回ってくるものです。」などと執拗に勧誘し、同原告は、病気をよくしたいという気持ちが強かったこともあり、結局参加することを承諾し、平成七年一〇月二三日、子供の学資として銀行から借り入れていた三三〇万円の中から二二五万円を被告法の華あてに送金した。

(3) 研修

原告⑰は、平成七年一〇月二八日から同年一一月一日まで、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「苦の行」、「最高です。」と声の続く限り叫ばされるもの等であり、また、合格判定会に被告野添が登場し、「駄目だ。駄目だ。」などと怒鳴り散らして、参加者をあおり立て、異様な雰囲気であった。同原告は、声が出なくなり、研修終了後には、耳管狭窄症、慢性咽喉頭炎で通院治療を要するほどであったが、最後までやり遂げた。

(4) 研修後の「天声」

原告⑰は、右研修終了後の平成七年一二月四日ころ、西牟田から「天声」を聞きに来るように言われ、あれだけ苦しい研修をしたのだから、健康問題について何か参考になる助言があるかもしれないと思い、鹿児島市のサンホテルに行った。同原告は、そこで、被告野添から、「天声」として、「家の中心」、「人間社長」、「法徳士」を示され、その合計が一二六三万円である旨、さらに、「一二月二三日に式典がありますから、それまでに払って下さい。」、「借金してでも払いなさい。」、「もとに戻ってしまう。」、「教師たるもの心変わりしてもいいんですか。」などと言われた。同原告は、単なる助言が聞けるものとばかり思っていたため、更に出捐を求められて驚いたが、自分の健康面を何とかしなければならないという気持ちが強かったこと、すでに二〇〇万円以上支払ってしまっていたこともあって、もとに戻ってしまうのならばもう少し頑張ってみようと思い、右出捐を承諾した。同原告は、教職員組合等から借入れをして四〇〇万円を準備し、被告法の華あてに振り込んだが、残りは支払えなかった。

(四) その後

原告は、その後も、大腸ポリープの治療のため平成八年三月一三日から同月一九日まで、また、食道静脈瘤の治療のために同年一二月一六日から平成九年二月二二日まで、それぞれ入院する等、研修前と変化は起きなかった。そして、二回目の入院中、テレビで被告法の華に関する報道を見て、騙されたことに気付いた。

13  原告⑱(原告番号⑱。以下「原告⑲」という。)及び原告⑲(原告番号⑲。以下「原告⑲」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B一八の1ないし5、一九の1、2、原告⑲本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑱と原告⑲は夫婦であり、平成七年ころ、住所地において二人暮らしをしていた。原告⑲は、平成六年六月ころ、椎骨脳底動脈循環不全症という病気にかかり、通院し、薬を服用する等していたが、原因が不明であり、医者からも完治の見込みを告げてもらえず、夫婦ともに右病状に悩んでいた。

(二) 端緒

原告⑲は、平成七年一〇月ころ、姪が送ってきた被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を読み、研修で頭を取れば健康になる旨の記述に興味を抱いたが、同じころ、被告法の華の川島から電話があり、東京から足裏を診断する有名な先生が来るということで、福岡市中央区にある被告法の華福岡支部に来るように誘われ、同年一一月一日、同支部を訪れた。

(三)(1) 足裏診断

同原告らは、同支部で、それぞれ五〇〇〇円を支払って、足裏診断を受けたところ、診断者である新瀧から、「踵があれている。」、「薬は麻薬と同じだから使ってはいけない。」、「先祖の生き様が悪いからだ。」、「研修で頭を取れば病気がよくなり、その後も一切病気というものは存在しない。」などと言われ、研修に参加することを勧誘された。

原告⑲は、前記のとおり、病気が完治する見込みがなかったことから不安な気持ちになり、研修の内容は教えてもらえなかったものの、病気を治したい一心で三法行セット(七万円)を二人分購入するとともに、研修に参加することを承諾し、右費用二三九万円(うち研修費用二二五万円)を、平成七年一一月五日ころ、同支部に持参して、川島に支払った。

さらに、同月七日、川島が同原告ら宅を訪れ、原告⑱に対し、「病人に付き添う人は頭を取った人じゃないといけない。」、「病気がよくなりたければ、至急支払いなさい。」などと言って研修に参加するよう執拗に勧め、同原告は、妻の病気が治るのではあればと思い、参加を承諾し、先に支払った費用を原告⑱分とした上、原告⑲分として、一二五万円を追加して支払った。

(2) 研修

同原告らは、平成七年一一月一一日から同月一五日まで、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、三、四時間同じ姿勢で「七観行」を叫ばされるものや、四ないし六時間「法説行」をさせられるもの等であったが、原告⑲は、後頭部が痛くなり、体調の変調をきたすほどであった。

(3) 研修後の「天声」

同原告らは、平成七年一一月一八日ころ、川島から「天声」を聞きに来るように言われたので、被告法の華の福岡支部に行ったところ、被告野添は、同原告らに対し、「天声」として、「家の中心」、「法説行」、「水子法納」を伝え、「家の中心を入れると病気がよくなる。」、「家の中ががらっと変わり、光り輝くようになる。」、「自分も中心を入れたら子宮癌がよくなった。」、「水子の供養をしないと怖い。」などと言って、天声に従わないと、先祖の因縁によって同原告らにたたりが起きるなどと、殊更不安感、恐怖心をあおり、逆に、天声に従えば、必ず病気がよくなるといった断定的な話を執拗にして、これらを購入するよう勧めた。

さらに、被告野添は、「家の中心」として二三三万円、「水子法納」として一〇〇万円、「法説行」として一〇〇万円を支払うよう迫り、同原告らは、金額の大きさに驚いたが、「家の中心を入れないと病気がこれからも来ますよ。」、「一一月二五日の前に至急四三三万円を支払わないと、妻の原因不明の病気が治らない。」などと言い、同原告らは、同被告の自信のある態度から、これに応じないと本当に病気が段々ひどくなるのではないかと思い、病気を治したい一心で購入することを承諾した。

そこで、同年一一月二〇日、原告⑱は三三三万円(家の中心代及び水子法納代として)を、原告⑲は一〇〇万円(法説行代として)を、それぞれ被告法の華あてに送金した。なお、同原告らの出捐は、すべて老後のために蓄えていた原告⑱の退職金から捻出した。

(四) その後

その後、被告野添から、平成七年一一月二五日に天地堂で天授式があるから参加するように連絡があり、被告福永から、原告⑱は「家の中心」という掛け軸を、原告⑲は「法説行」をそれぞれ手渡された。さらに、同月末に「法洗試行券(「天声村」の「温行館」という施設で七観行を唱えながら修行をするための券)」が送られてきたので、その代金二万四〇〇〇円を支払った。

同原告らは、その後、平成八年の春ころまで、毎日「法説行」をしたり、被告法の華の福岡支部長であった井上から指示されて、平成八年の元旦の午前二時ころから午前七時ころまで、太宰府で被告福永の著書を配ったりさせられたが、一向に病気が治らず、その徴候さえないことから、同年の秋ころ、右井上に対し抗議をしたところ、多くの人を勧誘しないといけない旨言われ、被告法の華に対する不信感が決定的となった。

14  原告⑳(原告番号⑳。以下「原告⑳」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二〇の1ないし5)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告⑳は、国立福岡東病院において、事務職として稼働していたが、平成六年八月ころにうつ病が発病し、同年一〇月二六日から休職し、福間病院精神科に通院加療中であった。

(二) 端緒

原告⑳は、療養中の平成六年一一月ころ、被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を読み、興味を抱いたので、末尾に連絡先として記載されていた「ゼロの力学本庁」に電話してみると、博多駅前のホテルでの説明会に参加するよう勧められ、同年一二月二八日、右説明会に出席した。

(三)(1) 勧誘

原告⑳は、そこで、まず用紙に悩み事等を書かされ、それが被告法の華にファクシミリで送信され、その後、「ゼロの力学本庁 担当講師 平賀茂」名義の書面がファクシミリで返信されてきた。そこには、被告福永から聞いた内容を伝える旨の前置きがあり、同原告の「病気は、平成七年にもっとひどい状態で再発する。最悪な場合癌になる。年内に観いを定め、新春の頭を取るための特訓に参加すれば、二度と病気が再発することはない。」といった内容であった。なお、平賀は、被告法の華の天声講師であったが、いちいち被告福永に伺いを立てることはせず、自分が判断して回答書をファクシミリで返送していた。

その後、原告⑳は、別室に連れて行かれると、担当者から、研修の参加費用が一三五万円である旨告げられ、研修の参加を勧誘された。同原告は、金額の高さに驚いたが、結局、同年一二月二九日及び同月三〇日に分けて、「ゼロの力学本庁」あてに合計七五万円を送金した。

ところが、同原告は、その後、うつ病が軽快したため、研修に行く気がなくなり、被告法の華の福岡支部長の長坂等に対し、支払った金員の返還を請求したが、平成七年一月下旬ころから、再びうつ病が出てきたため、弱気になってしまい、支払った金員をなかなか返してもらえそうになかったので、せっかく払い込んだ以上研修に行こうかという気持ちになり、他方、妻から反対されたため迷っていたところ、同年二月二日ころ、長坂から、電話で、「そんなフラフラした気持ちだからいけない。」、「研修を受けて真人間になれ。」などと言われ、翌日、研修に参加することを決心した。

(2) 研修

原告⑳は、平成七年二月四日から同月八日までの間、天声村での研修に参加した。

その内容は、常に体を動かす、「法説行」をする等であり、同原告は、何度も逃げ出そうと思ったが、なんとか最後までやり遂げた。

(四)その後

原告⑳は、研修終了後の平成七年二月二六日、長坂から、「天声」が出たので聞きに来るように言われ、午後四時ころ、サンライフホテルに行ったが、そこで、同原告は、被告福永と電話で話し、同被告から今までの生き方がいかに間違っていたかを強調され、その後、被告野添から、「家の中心」等五つの「天声」を示され、合計五三六万円を請求され、「お金の問題ではない。」などと執拗に言われた。結局、同原告は、家族に反対されたため、右金員を支払うことはなかった。なお、同原告は、現在、うつ病が悪化し、入院治療中である。

15  原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二一の1ないし4、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告は、平成九年三月当時、名古屋の製綱所を定年退職後、住所地において妻Cと長女Dの三人暮らしであるが、警備会社の臨時雇いのガードマンをしていた。同原告の妻は、長女を出産して以来、精神状態が悪く、平成七年には、非定型精神病で精神科の病院に三回入退院を繰り返し、当時も通院治療を継続していた。また、長女も、三歳のころから一二歳のころまで小児喘息を患う等病弱であった上、母親と不和が続いたり、高校を中退して、やっと大学に進学していたこと等から、同原告は、妻や長女の健康を心配するとともに、家庭不和にも悩んでおり、不動尊に参ったり、占い師に見てもらったこともあったが、思うように状況が改善しないことから、宗教には失望していた。

(二) 端緒

原告は、平成九年三月ころ、街頭でもらった被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を読み、「病気がよくなる。」、「人間関係がよくなる。」等の記述に興味を抱き、また、神仏信仰等とは違っているように思えたことから、右著書の末尾に記載されていた「ゼロの力学本庁」に電話をすると、被告法の華の福岡支部に行くよう勧められた。

(三)(1) 勧誘

原告は、平成九年四月ころ、右支部を訪れ、杉林支部長らと面談した。同原告は、前記のとおり宗教に失望していたので、まず、宗教でないかと確認すると、杉林は、宗教ではなく、宇宙の法則に従った生き様をすることにより、病気も暮らしもよくなる旨答えたため、安心して話を聞くことにした。杉林は、同原告が修行することにより、同原告の観いが妻や長女に波動として届くことにより、妻や長女も病気が治る旨説明し、また、同原告を立たせて、その頭の上に手をかざし、「気」を送るような動作をした。

同原告は、早速修行をやってみることにし、「天法行セット(「天声聖書」や「法説行」のための道具等。八万円)」を購入し、次の日から「法説行」等を始めた。

半月くらい経った後、杉林と佐賀支部の支部長である牟田口が同原告方を訪ね、「天声によれば、あなたの修行が天声村であるから、それに間に合うようにお金を出して修行しませんか。」、「この修行をしないともう二度と修行はされませんよ。」、「これを逃したら、あなたは一生こんな目に遭うよ。」などと言って、研修への参加を執拗に勧誘するとともに、その費用は二二五万円である旨告げた。

同原告は、右参加費用が高額であることに驚いたが、研修の内容は、それまでにやっていた「法説行」や「天声聖書」を読むようなものであると推測したこと、勧誘を受けているうちに、修行に参加すれば、妻及び長女の健康や家庭不和が解決するのではないかという気持ちになったことから、結局、研修に参加することにした。なお、同原告は、長年にわたって老後のために貯めた貯金だけでは足りず、生命保険を担保に借入れをして二二五万円を準備し、送金した。

(2) 研修

原告は、平成九年四月中旬ころから五日間、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「七観行」を絶叫するものや、力一杯四股を踏み、人を罵る言葉を吐きながら動き回るもの等であり、同原告は、あまりの過酷さに思考力がなくなり、時間の経過も分からなくなるほどであったが、家族の健康のためだと思い、最後までやり遂げた。

(四) その後

研修終了後、原告は、他の参加者とともに「天声」を待っていたところ、被告福永は、「今度の研修生には、天声の出るような生き様をした人はいなかった。」などと言い、さらに、被告福永の著書を三冊持って帰って売り、代金を送ること、必ず研修生を一人送り込むよう指示した。

同原告は、「天声」によって、妻や長女の健康、家庭不和が解決するような具体的な方法を示してもらえることを期待していたにもかかわらず、これが出なかったことを不満に感じつつ帰ったが、その後、間もなくして、長女に対し、被告法の華の研修に行ってきたことを話したところ、同女から、被告法の華がテレビで報道されていること等を教えられ、騙されていたことに気付いた。

16  原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二二、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告は、平成五年当時、建築整備士の資格を持ち、コンベア機械メーカーで働いていたが、昭和六二、三年ころから、後頭部の首の付け根付近が重く、痺れるような感覚が慢性的にあり、記憶力、集中力が低下して物忘れがひどく、仕事にも支障が出るほどであった。そこで、同原告は、複数の病院でレントゲン撮影やMRI検査等を受けたが、原因が分からず、悩んでいた。

(二) 端緒

原告は、平成五年一二月ころ、被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を読んだところ、癌やエイズが消えるという記述に興味を抱き、末尾に記載されていた「ゼロの力学本庁」に電話をしたところ、被告法の華の富士総本部を紹介され、そこに電話をすると、こちらに来て、直接被告福永に診てもらうように勧められたため、行ってみることにした。

(三)(1) 足裏診断

原告は、平成五年一二月二八日、右総本部に行き、五万円を支払って、足裏診断を受けた。すると、被告福永は、同原告に対し、「足の形がよいのに、踵が汚れている。」、「全然悩んでいる必要はない。」、「研修を受ければ問題はなくなる。」などと言った。同原告は、足の裏を診ただけですべてが分かるはずはないと思いつつも、足の裏を診るということは、気功のような東洋医学の類ではないかと推測した。その後、女性スタッフが、同原告に対し、「特訓があります。短期間で非常な効果が上がります。」、「頭を取れば、非常な効果があります。」、「そのためには、ぜひとも研修に参加する必要があります。」などと言って、研修への参加を勧誘し、さらに、参加費用は一〇〇万円である旨伝えた。

同原告は、金額の高さに驚いたが、前記のとおり、病院での検査を尽くしていたことから、自分の偏頭痛は、現代医学では治らないものと思っており、この東洋医学のような研修に賭けてみようかという気持ちになった。また、その女性スタッフは、「とにかく今日中に一〇〇万円払ってください。そうしなければ、足裏診断をした意味がなくなります。」と勧めたため、結局研修に参加することにした。なお、右費用は、その日のうちに、将来の独立資金として貯めていた貯金をおろして、送金した。

(2) 研修

原告は、平成六年一月九日ころ、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、池袋の繁華街にマイクロバスで連れて行かれて、「七観行」を唱えつつ、「最高ですか。」と声をかけた上で、被告福永の著書を一〇冊程度売らされるもの等であり、また、睡眠時間も、最初の二日間はほとんど徹夜状態であった。同原告は、虚脱感だけが残るような感じであったが、なんとか最後までやり遂げた。

(3) 研修後の「天声」

研修終了後、中年の女性が、原告に対し、「天声」として、「あなたの頭痛は、全然問題ないです。むしろ、あなたは社会に貢献すべき人です。」、「そのためには、二〇〇万円支払ってください。」、「車一台買うお金をこちらに回したと思いなさい。」などと言った。同原告は、それまでの研修では偏頭痛が治っていなかったことから、右金員を支払えば、個別的な治療を受けられるものと思い、また、既に支払った一〇〇万円を無駄にしたくないという気持ちもあって、言われるままに承諾した。なお、右金員は再び貯金をおろして送金した。

(四) その後

原告は、その後も、一、二か月程度は「三法行」等を続けたが、効果が感じられないことからやめてしまい、自分なりに食事や生活態度を改善することにより、偏頭痛を治していった。

17  原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二三の1ないし6、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告は、平成八年当時、住所地に母と二人暮らしをしており、正看護婦をした後、製薬会社にクリニカルコーディネーターとして勤務し、腎臓透析の器具の使用方法を指導する等の仕事をしていたが、昭和六三年五月、左股関節亜脱臼となり、手術を受けたが、三年間松葉杖の生活を送らなければならなかったため、仕事を辞めざるを得なくなった。その後、同原告は、宮崎に戻ったが、仕事における女性の地位が低いと感じて、仕事の内容に満足がいかず、転職を繰り返す状況であり、また、父が平成八年七月に心不全で死亡し、兄も同年一一月に離婚する等、家族にも不幸が続いた。そのため、同原告は、自らの状況も含め、なぜ自分の家族ばかりが不幸になるのかなどと悩んでいた。

(二) 端緒

原告は、平成八年一一月ころ、以前に自宅に投函された被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を読み、悩みに引きずられることなく前向きに生きるべきである旨の記述に興味を抱き、「ゼロの力学」の宮崎支部に電話をしたところ、事務所に来るように誘われたので、行ってみることにした。

(三)(1) 天行力大祭まで

原告は、平成八年一一月ころ、右支部の事務所に行くと、まず、アンケートに記入させられた後、甲斐磯子から、「私たちは宗教ではありません。ゼロの力学といって、みんなで勉強して、悩みを解決していく集まりですよ。」との説明があり、続いて、身体が悪い人、今年親族が亡くなったり不幸が続いている人等を対象にした年一回の集会に行ってみるよう勧められたので、三法行セットを購入し、同年一二月一〇日、東京ドームでの「天行力大祭」に参加した。

そこでは、被告福永の講演があったが、「頭を取らないと、宇宙からの天行力が入ってこない。」、「早く頭を取ることが必要である。」などという内容であった。同原告は、被告福永の講演の内容が理解できず、一緒に宮崎から来ていた甲斐磯子らから、「頭を取るためには、研修に参加しないといけない。」などと説明を受けたが、研修の内容は「経験してみないと分からない。」と言われたため、その時は即答をせず、宮崎に戻った。

(2) 勧誘

その後も、原告のところに、「ゼロの力学」宮崎支部から電話がかかり、事務所に呼ばれた。同原告が事務所に行くと、二人の女性が応対し、一人は、家庭不和が解決した、もう一人は、自分の思うような仕事に就けるようになったなどと、自らの経験談を話した上、同原告の悩みについても、「自分自身の能力を生かせて、それに見合った収入が得られる仕事に絶対巡り会える。」、「家族の不和の状態も、嘘のように一挙によくなる。」などと言った。同原告は、二人が、自分と同じような悩みを解決したことに興味を抱いた。同原告は、研修の内容は、自己啓発セミナーの類であろうと推測したが、参加費用をなかなか教えてもらえず、「研修に参加すれば、すべて変わる。」、「とにかく参加してください。」と繰り返すばかりであったため、とうとう根負けして、参加する旨返答したところ、ようやく参加費用が二五〇万円であると説明された。

同原告は、参加費用があまりに高額であったためこれを断ろうとすると、「もう参加すると言ったでしょう。」、「他の方も初めは驚かれるけど、お金を借金していろいろかき集めて、それでも行かれて、本当によかったと言われてます。」、「二四時間以内に払わないと効果がありません。」、「今手元に持っているお金を全部出しなさい。」などと交互に説得され、その雰囲気に押されるようにして手持ちの現金一六万円を支払った。そして、貯金を解約したり、九〇万円借入れする等して残りの参加費用を準備し、一〇万円を前記宮崎支部に持参し、二二四万円を送金した。なお、その間、被告法の華が宗教団体である説明は一切なかった。

(3) 研修

原告は、平成八年一二月二六日から同月三〇日までの間、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「華の行(講堂の前方に一人だけ出て、他の参加者に向かって身体を使って暴れ回り、罵声を浴びせたりするもの)」や、「七観行」を大声で繰り返し言わされるもの、勧誘の練習等であった。特に、風邪をひいていた同原告は、声が潰れてしまったにもかかわらず、薬も飲ませてもらえず、「そんなものは四、五日で治るからもっと声を出せ。」などと言われ、また、異常な熱気の中で研修をさせられ、汗だくになるにもかかわらず、五日間着替えも許されなかったため、同原告にとっては、屈辱的で耐え難いものであった。また、研修終了直前にTシャツを着せられ、次の人を勧誘するまで脱いではいけない旨指示された。

(四) その後

原告は、研修終了後、前記のとおり、風邪をひいていたにもかかわらず、大声を出し続けたため、急性咽喉頭炎となり、一か月程度声が出ない状態が続き、高熱も出る等体調を崩し、平成九年の六月になっても、かすれ声の状態が治らなかった。

その後も前記宮崎支部から、「天声」が出たので聞きに来るようにとの電話が何度もかかってきたが、同原告は、研修で被告法の華に対する不信感が生じていたため、これに応じなかった。

18  原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二四の1ないし10、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告は、平成五年当時、住所地に父母と三人暮らしをしており、食料品ストアを経営していた。同原告は、昭和五〇年ころから視力が低下し始め、昭和五一年ころ、網膜色素変性症と診断され、その後も視力は低下し、昭和六一年には身体障害者等級一級の認定を受け、明かるさだけしか分からないような状況に至っていたが、医者からは、先天性の病気であり、厚生省の難病にも指定されており、現代の医学では治療方法がないと言われていた。

(二) 勧誘

原告は、平成五年一〇月ころ、魚市場で知り合った被告法の華の天草支部の丸木勝(以下「丸木」という。)から、「その目がひょっとしたら治るかもしれん。」、「行で治す。」、「とにかく、一三五万くらいかかる。もしかすれば、三〇〇万ぐらい、後でかかるかもしれんが。」などと言われ、研修への参加を勧められた。同原告は、最初は冗談であろうと取り合わなかったが、丸木が、同原告宅にまで来て、何回も繰り返し勧誘するため、医者から見放されていたこともあり、次第に、本当に治るのであればその可能性に賭けてみよう、将来に備えて貯めてきた金を使ってもよいのではないかという気持ちになっていった。

そして、同原告は、研修内容を教えてもらえなかったものの、病院関係で治療をしてくれるものであろうと推測し、念のため、健康保険証を準備して、研修に参加することにした。

(三)(1) 足裏診断

原告は、平成五年一一月一四日、被告福永の足裏診断を受けたところ、同被告は、「立派な九州男児の足をしているね。だけど、右足の薬指が短いようだ。」などと言い、続けて、手を頭の上に乗せ、「行に励めば、治るぞ。」などと言い、丸木も、「よかったなあ。目は治るぞ。」と言いながら握手を求めてきた。同原告は、断定的に治ると言われたのは初めてであったので、半信半疑ではあったが、一生懸命頑張ってみようという気持ちになった。

(2) 研修

原告は、平成五年一一月一三日から同月一七日まで、天声村での研修に参加した。右研修には、丸木と久我の二名が付添いとして参加した。

研修の内容は、「七観行」や「般若天行」を絶叫するものや、「苦の行」等であった。原告は、字が読めないため、他の参加者が絶叫する言葉を聞いて覚えて絶叫し、研修を続けるうち、異常な興奮状態となり、「苦の行」の途中には、幻覚を見るほどであった。

(3) 研修後の「天声」

原告は、研修終了後、女性スタッフから、「天声」、「五代前からの生き様、死に様の大掃除をしなさい。」などと書かれた紙を読み上げられ、その内容は、「家の中心」と「解脱法納」をすることである旨説明された。同原告は、病気の治療のため通院していた際、医師から、先天性の病気なので、同原告の家系の中に同じ様な人がいたのではないかと言われたことを思い出し、先祖の供養をして、今後も行に励めば治るということであろうと理解した。そして、直ちに手持ちの現金三〇万円を支払うとともに、母親に電話して三〇〇万円の振込みを依頼し、家の中心の代金を支払った。解脱法納については一〇〇〇万円もかかるとは予想していなかったため、迷っていたが、付添いで来ていた久我が立て替えてくれたと聞いたので、住所地に戻ってから、視力が落ちる前に、仕事ができなくなったことを心配して、少しずつ蓄えていた定期預金を解約した上、一〇〇〇万円を、久我に返すように頼んで、丸木に渡した。

(四) その後

原告は、その後も、目を治したい一心であったため、家族の反対にもかかわらず、、三法行手帳等(代金合計三四万〇七二〇円)を購入して、法説行等に励んでいたが、病状に変化はなく、その後、被告法の華に対する返還請求訴訟が提起されていることを知り、騙されたことに気付いた。

19  原告(原告番号。以下「原告」という。)及び原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二五の1、3、4、二六の1、3ないし5、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告と原告は、平成五年当時、婚約していたが、原告の実家が家業の看板業の経営に行き詰まり、両親や兄が多額の借金を負い、その取立てが殺到していたため、自らも身の危険を感じており、さらに、その母が、平成二年ころ、交通事故に遭い、父も、平成三年ころ、脳内出血で入院する等、家族の不幸が相次いでいたため、自分を含めた家族の将来に不安を感じていた。

原告は、生まれつき右眼の視力が全くなく、また、祖父母や従兄弟が早逝していたため、自分の家系は何か悪い因縁に取りつかれているのではないかと悩んでいた。

(二) 端緒

原告は、平成五年ころ、被告福永の著書「これが驚異の天行力だ」を読んだところ、同被告のもとで研修を受けて頭を取れば、家系もよくなり、病気が治る旨の記述に興味を抱いたので、右著書の末尾に記載されていた被告アースエイドに電話をし、さらに、熊本市で開催された被告福永の講演会に参加した。

そこで、被告福永は、「先祖五代前からの生き様が自分を作る。このままでは先祖と同じことを繰り返す。」などと言っていたため、このままでは、自分の病気も治らず、身内にもっと不幸が起きるのではないかと不安になった。さらに、同原告は、平成六年三月、東京の被告アースエイド本部を訪れ、被告法の華のスタッフから、被告福永による特別鑑定と研修への参加を勧誘され、その費用(合計二〇〇万円)を捻出しようと、東京や大阪で仕事をして貯めようとしたが、結局断念し、同年五月に福岡に戻ってきたが、自分の病気が治る等するのであれば、何としてでも研修に参加したいと思うようになった。

原告は、原告から右書籍を借り、先祖の生き様が引き継がれる旨の記述を読んで、このままでは、結婚しても、自分も原告も幸せになれないのではないかと不安を抱いた。

(三)(1) 足裏診断(原告について)及び勧誘(原告について)

原告は、平成六年五月に福岡に戻った後、被告アースエイドの福岡支部に電話をかけたところ、足裏診断を受けるように勧められたので、同月二七日ころ、博多駅前のホテルに行き、被告野添の足裏診断を受けたところ、同被告から、「汚れている。」、「このままでは癌とかで早死にする。」などと言われた。同原告は、実際に自分の家系に癌等で早逝した者がいたため、恐怖を感じ、何としてでも研修に参加して、頭を取らなければならないと強く思うようになった。

原告も、同じころ、被告アースエイドの支部長である長坂から毎日のように電話がかかり、「あなたも研修に参加しなさい。」、「研修費用は、一〇〇万円必要です。」などと言われて勧誘された。同原告が、実家の借金のために余裕を残しておきたい旨伝えると、長坂から、「そんなお金はとっていてもどうにもならない。」、「そんなことをするよりも、借金してでも研修に参加して、家の問題を解決しなさい。」などと言われ、執拗に勧誘された。

結局、同原告らは、相談した上、二人で研修に参加することにした。なお、原告は、金融会社や原告の従兄弟等から借金をして、右費用を準備した。

(2) 研修

同原告らは、平成六年六月二五日から同月二九日までの間、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「七観行」や「般若天行」を絶叫させられるものや、池袋に連れて行かれて、「七観行」等の字を通行人になぞってもらうもの、「苦の行」、「二四時間行」等であった。同原告らは、指導員から突き飛ばされたり、怒鳴られて泣いている参加者を目撃し、原告も、声が小さいために肩を小突かれたり、突き飛ばされたりした。

(3) 研修後の「天声」

同原告らは、研修終了後、それぞれ「天声の間」に連れて行かれ、被告福永から、原告に対して、「家の中心」を定め、「法説行」をする旨の、原告に対して、「自分の中心」を定め、「赤い糸」をする旨の「天声」が、それぞれに読み上げられた。続いて、指導員の松尾好子から、原告は、「このままいけば、家の繁栄はない。」、「子供にも影響が出る。」などと言われ、合計三六〇万円を支払うように、原告は、「あなたはさんと結婚したいのでしょう。結婚前に大掃除をしないと結婚生活もうまくいかないし、子供にも影響が出る。さんの両親から借金してでも払いなさい。」などと言われ、合計一八〇万円を支払うよう、それぞれ勧誘された。

同原告らは、いずれも高額すぎるとは思ったが、原告は、自分の病気が治り、不幸続きだった家も繁栄するのであればと考え、また、原告も、今までの生活から抜け出せるのであればと考え、結局、同原告らは、これを支払うことを決意し、原告の父から借金をして右費用を準備し、平成六年七月一日、一八〇万円と三六〇万円を松尾好子あてに送金した。

(四) その後

同原告らは、平成六年一二月の天行力大祭に参加したが、その後、平成七年七月に入籍して以降は、被告法の華からの連絡も途絶えた。そして、平成九年ころ、被告法の華に関する報道によって、自分たちが騙されていたことに気付いた。

20  原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二七の1、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告は、平成六年当時、住所地において家族四人暮らしで、ラーメン屋を営んでいたが、二〇歳のころに腸閉塞を患って死にそうになって以来、神経質になり、夜もよく眠れないことがあり、また、妻にはてんかんの持病があり、何度も同原告の目の前で発作を起こしていたため、同原告は、複数の病院を受診させたり、お祓いをしたりもしたが、病院では薬によって発作を抑えることしかできなかったため、何とか完治させてやれないものかと思い悩んでいた。

(二) 端緒

原告は、二〇年来の知人であり、実の兄のように慕っていた池田昌弘(以下「池田」という。)から、同人が病気で死ぬ一歩手前までいったが、健康関係の本等に頼って、自分で病気を治したという話を聞いており、自分の病気の悩みなどを相談していた。同原告は、池田から、被告福永は不思議な力を持っており、池田が同被告から頭を押さえられたとき背中を電気が走ったという話を聞き、そのような力を持つ人間であれば、自分や妻の病気を治すことができるかもしれないと期待し、同被告の著書を一〇冊ほど買った。そして、同原告は、平成六年三月ころ、池田に連れられて、佐賀市内の旅館「葉隠荘」に、足裏診断を受けに行くことにした。

(三)(1) 足裏診断

原告は、右旅館において、男性の診断士から足裏診断を受けたところ、その診断士は、いきなり、「胃腸が弱いね。」などと言ったので、同原告は、言い当てられたことに驚いた。そして、別の女性スタッフや池田が、同原告に対し、口々に「頭を取る必要がある。研修を受ければ、病気は治る。」、「研修を受けなければ早く死んでしまう。」、「今ここで決めなさい。」などと言って、研修への参加を勧誘し、さらに、同原告と妻の二人分の参加費用が二五四万円である旨告げた。

同原告は、最初は高額すぎると思い、また、研修の内容も教えてもらえなかったが、自分が信頼している池田が体験したことでもあり、妻の病気を治したい一心であったため、結局参加することにした。なお、同原告は、店の運転資金として貯めていた定期預金を解約して、右費用を準備し、送金した。

(2) 研修

原告は、妻とともに、平成六年三月一八日から同月二二日まで、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「七観行」や「最高です。」と絶叫するものや、「法説行」、「二四時間行」、「乞食行(街頭で土下座をし、四五分間、頭を上げない姿勢のままでいるもの。)」等であった。また、同原告は、「七観行」を唱える際、気合いが足りないとして、自分で顔を多数回叩かされたため、顔が腫れてしまうほどであったが、何とか最後までやり遂げた。

(3) 研修後の「天声」

研修終了後、原告は、被告福永から何かを言われて紙を渡されたが、内容は理解できなかった。続いて、金子洋子と面談し、同原告が悩みを打ち明けると、「この研修だけではまだ治っていないんですよ。家の中心になりなさい。」、「てんかんが子供の代まで続きますよ。」、「あなたが家の中心にならなければ家は破滅します。」などと言って、「家の中心」、「法説行」の代金として、合計四三〇万円を支払うよう告げた。同原告は、妻の持病を完治させてやりたいという一心であり、また、子供にも影響が出ることにショックを受けたため、結局これを支払うことにした。なお、同原告は、前記の定期預金の残額に加え、父から借金をして、右費用を準備し、四三〇万円を「ゼロの力学本庁」の金子洋子あてに送金した。

(四) その後

その後、原告は、天声村での式典に参加して、「家の中心」等を受け取りに行き、被告法の華のスタッフに言われたとおり、「法説行」を七〇〇巻まで行い、また、「家の中心」を体の上にかけると病気がよくなると言われたので、何度か試してみたが、同原告と妻の病気はいずれもよくならなかった。

そして、平成九年初めころ、テレビのワイドショーで被告法の華に関する批判的な報道を見て、自分も騙されたのではないかと思って悩んだが、さらに、被告法の華に対する訴訟が提起されたことを知り、同年一一月、弁護士に相談した。

21  原告(原告番号。以下「原告」という。)及び原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B二八の1ないし5、二九の1ないし7、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩み等

原告及びその長男である原告は、平成八年当時、住所地において二人暮らしをしていた。

原告は、平成三年ころ、対人関係が原因でノイローゼになって鹿児島に戻った後、さらに、仕事上のストレス等が重なったため、躁うつ病になり、平成五年三月と平成七年五月の二回、精神病院に入退院を繰り返し、また、平成四年一一月には自殺未遂を起こしたりし、同原告は、このような状況を悩んでいた。

原告も、原告の病気に心を痛め、また、同原告の将来を心配していたが、そのことを誰にも相談できずに、一人で悩んでいた。

(二) 端緒

同原告らは、平成八年五月ころ、原告の姪の夫に当たる中馬俊二(以下「中馬」という。)から、被告福永の著書「病苦を超える最後の天行力」を勧められ、同月一九日、宮崎で行われた同被告の講演会に参加した。右書籍には、「修行すれば癌が治る。」などの記述があり、また、同被告は、右講演会においても、「修行すれば一八〇度人生が変わる。」などと言っていたため、同原告らは、研修に参加すれば、原告の病気が治るのではないかという希望を持つようになった。

(三)(1) 原告に対する勧誘

原告は、平成八年五月二〇日、被告法の華の信者に誘われ、鹿児島市内で開催されたビデオ上映会に参加したが、その際、被告法の華の都城支部長であった下松瀬に対し、精神病について悩みを打ち明けると、同人から、「顔が明かるくない。」、「五代前の先祖の生き様が悪いからだ。」、「修行をすれば、病気も治り、子孫も繁栄する。」などと言われた。同原告は、このままでは一生治らないのではないかと強い恐怖に襲われ、これ以上原告に対して迷惑をかけたくないという思いもあって、研修に参加することにし、原告から不足分を借金して、研修の参加費用、三法行セット、法説御法行の合計二三三万二〇〇〇円を支払った。

(2) 原告の研修

原告は、平成八年五月二二日から同月二六日まで、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「七観行」や「般若天行」を絶叫するものや、「苦の行」などであった。同原告は、なんとかこれをやり遂げたが、これが原因で躁状態になり、同年六月一一日には精神病院に入院した。

(3) 原告に対する勧誘

原告は、平成八年五月下旬ころ、下松瀬から、三法行セット八万二〇〇〇円を買うよう勧められ、右現金を同人に渡した。

同原告は、原告が研修から帰ってきた直後に、中馬ら被告法の華のスタッフから電話を受け、「お母さんが修行して頭を取らないと息子さんの病気は治らない。」、「息子さんが頭を取っているので、お母さんも頭を取らないと、波動が合わない。」、「五代前からの血の汚れを引き上げさせなければならない。」などと言われた。原告は、自分の姉の息子も精神病であったため、やはり先祖が汚れているのかと思い、息子のために研修に参加することにし、その参加費用一二五万円を「ゼロの力学本庁」あてに送金した。

(4) 原告の研修

原告は、平成八年六月一五日から同月二〇日まで、天声村での研修に参加したが、その内容は、原告と同じものであった。

(5) 研修後の「天声」

同原告らは、平成八年七月一六日ころ、西牟田から、「天声」が出たので聞きに来るように言われ、鹿児島市内の京セラホテルに行った。下松瀬は、原告に対し、「自分の中心(代金五〇万円)」と「赤い糸(代金三〇万円)」が、原告に対し、「家の中心」と「解脱法納」が出た旨伝え、さらに、原告に対し、「これをしないと結婚ができない。」、「ますます病気が悪くなる。」、「今までと同じことの繰り返しです。」などと、原告に対し、「息子さんの病気も治って、子孫が繁栄する。」、「地獄界にいる先祖が天上界に行けるようになる。」、「一九九七年七月、人類の三分の一が滅亡する。銀行も潰れるから預金していても意味がない。」などと言って、家の中心の代金二三三万円、解脱法納代金三〇〇万円等を支払うよう執拗に勧めた。

同原告らは、あまりの高額さに断って帰ろうとすると、下松瀬は、「家の中心だけは、お母さん、どうしても入れてください。」などと言い、勧誘を続けた。原告は、親戚に精神病の者がいることもあって、先祖が汚れているのなら、支払をしなければならないかもしれないと思うようになり、原告も、自らの将来に不安があったため、病気が治るのであればという一心で、結局、原告が合計八〇万円、原告が二三三万円(「家の中心」のみ)を支払うことにした。なお、同原告らは、原告の夫の生命保険金から右費用を準備した。

(6) 原告に対する勧誘(右脳塾)

同原告らは、その後も、被告法の華のスタッフに誘われるままに、被告福永の講演会や天行力大祭に行くなど、その活動に参加していた。原告は、平成一〇年に入ると、被告法の華の本部の者から、「福永法源と会ってみないか。」などと言われて、同年五月末、上京することにした。

原告は、五万円を支払って被告福永と面談したところ、同被告から、「『右脳塾(被告法の華の出家信者の塾)』か『百歳塾(被告法の華の在家信者の塾)』か。」、「それをやらなければ生活に結果が出ない。」などと言われ、続いて、被告法の華のスタッフから、「躁うつ病は自己中心的病気である。人を喜ばしていないからだ。右脳塾生にならなければ治らない。」などと言われ、研修に参加することを勧誘された。結局、同原告は、原告から借金をするなどして、平成八年五月二一日に研修費用一二五万円、三法行代八万二〇〇〇円、法説行代一〇〇万円の合計二三三万円二〇〇〇円を送金した。

(7) 原告に対する勧誘(百歳塾)

原告は、平成一〇年五月ころ、被告法の華の本部の者が、代わる代わる電話をかけてきたり、同原告らの自宅を一〇回程訪れる等して、「お母さんも、『百歳塾』に参加して地域の人を喜ばさないといけません。」、「福永法源に一回面談したら決断がつくから。」などと言われ、同年六月中旬ころ、上京することにした。

原告は、二万円を支払って被告福永と面談したところ、同被告から、「『百歳塾』と『解脱法納』だけでもしなさい。」、「息子が右脳に入っているんだから、お母さんも絶対百歳に入らなければいけない。」、「後は何もしなくていい。」などと言われた。続いて、同原告らに付き添ってきた中馬らが、原告に対し、「人を喜ばせて天上界の一位になれるのだから。」、「家屋敷があるじャないか。」、「借金した人が一番徳を積めるんだ。」などと言って、百歳塾代と解脱法納代の合計一〇〇〇万円の支払を、一、二時間にわたって勧誘した。

結局、原告は、原告の病気がよくなるのであればと思い、右参加費用等合計一〇〇〇万円を支払うことにした。そして、原告は、年金、生命保険、定期預金をすべて解約しても右金額に不足したため、同原告の次男であり、原告の弟に当たるCから借金して右費用を準備し、支払った。

なお、その際、原告は、中馬らから、「世間の人は本当のことを言ったら絶対に貸してくれない。」などと注意されていたため、借金するに当たっては、千葉によい病院があるからなどと嘘をついた。

(四) その後

原告は、平成一〇年六月ころから、前記右脳塾に出家信者として参加したが、前記(三)(2)の研修と同様のことをさせられたため、躁うつ病がひどくなり、自分で精神に異常をきたしていることを感じ始め、また、精神に異常をきたしている参加者を見て怖くなったため、結局、同年七月ころ、右塾を逃げ出すに至り、その後、同原告らは、被告法の華に騙されたことに気付いた。

22  原告(原告番号。以下「原告」という。)について

前記争いのない事実及び証拠(甲B三〇の1ないし3、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 悩みなど

原告は、平成六年当時、住所地において、妻、父母、子供二人と暮らしていたが、以前に大腸癌を患ったことのあった父が、胃癌により余命三か月であると宣告され、また、平成元年に生まれた長男が、生後六か月の時に心臓病であることが判明し、その手術後も二回肺炎を患うなどしていた。また、母親も、白内障を患い、手術をするなどしていた。同原告は、これら家族の病気に悩んでおり、その他にも、平成元年ころに、兄が事故死していたため、自分の家系が、早死にする家系ではないかなどと不安を感じ、お祓いをしてもらったこともあった。

(二) 端緒

原告は、平成六年二月ころ、帯に「ガンを乗り越えた兄妹の真実の体験記録集」と書いてあることに興味を抱いて、被告福永の著書「これが驚異の天行力だ」を購読したところ、被告福永が、「平成三年一二月八日、東京国技館において、約一万人に向けて天行力を送った結果、約八割の人が治った。」との記述や、同被告により子宮癌を治してもらったという人の体験記などが出ていたため、父の末期癌に悩んでいた同原告は、末尾に記載されていた「ゼロの力学本庁」に問い合わせたところ、被告福永の診断を受けるように勧められ、上京した。

(三)(1) 足裏診断

原告は、平成六年二月一五日、東京都渋谷区にある松涛会館に行き、天行力手帳二冊(四万円)を購入させられ、さらに、五万円を支払って、足裏診断を受けた。

同原告は、まず、父及び長男の病気をアンケートに記入し、特に父の癌については余命三か月である旨も記入した。足裏診断を受けると、被告福永は、同原告に対し、「足の指が曲がっているので、家系的に長生きしない。」と診断し、続いて、長男は「将来目が見えなくなる。」、父は「駄目かもしれないが、天行力手帳をお父さんの枕元においてあげなさい。少しはよくなるでしょう。」などと言った。そして、同原告の頭に手を乗せると、「頭がついている。」、「頭を取るためには研修に参加しなさい。」、「頭を取れば癌にならないし、なっても治る。」などと言った。

引き続き、同原告は、被告法の華のスタッフから研修の参加費用は二〇〇万円であると説明され、高額であると思ったものの、被告福永があまりにも断定的に言ったため、家族の病気が治るのであれば参加してみようかという気持ちになり、佐賀に戻った。結局、同原告の父は、その直後の同月一八日に亡くなったが、長男が失明する等と言われたことが気がかりであったため、研修に参加することにした。なお、同原告は、定期預金を解約して右費用を準備した。

(2) 研修

原告は、平成六年三月一二日から同月一六日まで、天声村での研修に参加した。

研修の内容は、「湧かしあい」やみんなの前で大声を出すものなどであった。内向的な性格の同原告にとっては苦手なものばかりであったが、何とか最後までやり遂げた。

(3) 研修後の「天声」

研修終了後、原告は、河村というスタッフから、「天声」として「家の中心」が出たことを伝えられ、「五代前の供養をしないといけない。」、「そうすれば子供さんも含めて子孫は繁栄する。」、「これに応じなければ、家は、子供さんの代でなくなる。」などと言われ、家の中心代として三三〇万円、その他七〇万円の合計四〇〇万円を要求された。

同原告は、被告福永の話を信じ込んでいたため、これを払うことにし、佐賀に戻ってから、再び定期預金を解約して四〇〇万円を準備し、これを支払った。

(四) その後

平成七年一一月に次男が生まれたが、長男と同様に心臓病であり、手術をしなければならなかった。その時には、妻の体質などに原因があるのかと考え、被告福永から騙されたとは思っていなかったが、平成九年になって、佐賀新聞で被告法の華の裁判の報道がされているのを読み、そのころから、注意してマスコミ報道を見るようになり、その後弁護士に相談して、騙されていたことに気付いた。

三  被告らの不法行為の成否

1 一般に、特定宗教の信者が、相手方に先祖の因縁等の話を述べて、修行への参加や物品の購入等の出捐を勧誘する行為は、当該宗教の教義を広め、その宗教活動を維持するために行われるものである等、その行為が社会的にみて正当な目的に基づくものであり、かつ、その手段や結果が社会通念に照らして相当である限り、正当な宗教活動の範囲内にあるものと認められ、違法性を有しないことはいうまでもない。

しかしながら、相手方の出捐を前提とする行為の勧誘が、右範囲を逸脱し、その目的が専ら相手方からの出捐による利益の獲得にある等不当な目的に基づく場合、また、先祖の因縁等の話を利用し、害悪を告知して、殊更に相手方の不安をあおり、困惑に陥れたり、長時間にわたる勧誘などにより、相手方を疲労させ、判断力を低下させた上で、相手方に出捐することを決意させるなど、不当な手段により、到底自由な意思に基づくとはいえない態様で出捐させた場合、さらに、右勧誘行為の結果出捐した額が、各出捐者の年齢、家庭環境、資力、社会的地位等に照らして、不相当に高額であるような場合には、もはや当該勧誘行為は、宗教として社会的に相当なものとして許容される範囲を逸脱しており、違法であるとの評価を受けるといわなければならず、これにより出捐をした者は、右勧誘をした者に対し、不法行為を理由として損害賠償の請求をすることができると解するのが相当である。

2  手段

そこで、まず、被告らがとった手段について検討する。

(一) 端緒

前記二の認定事実によれば、それぞれに悩みを有していた原告らは、本件著作を読んで、又は被告法の華の信者からの勧めにより、被告アースエイド又は「ゼロの力学本庁」等に連絡をとり、そこで、被告法の華のスタッフから言葉巧みに足裏診断や説明会等に参加するよう勧誘され、その際、宗教であることは殊更秘匿され、原告らも、被告福永については、生態哲学博士という肩書などから、宗教に関わるものであるとの認識を持たないまま、説明会等に参加したことが認められる。

(二) 足裏診断

(1) 前記二の認定事実(原告①、原告②、原告⑦、原告⑧、原告⑨、原告⑫、原告⑮、原告⑰、原告⑲、原告、原告、原告及び原告に関するもの)によれば、右原告らは、足裏診断を受けるよう勧誘、説得され、結局右診断を受けたところ、「すぐに死ぬような状況だ。」(原告⑰)、「一家全滅だ。」(原告①)、「やっぱりあなたも癌になるよ。」(原告⑫)、「このままでは癌とかで早死にする。」(原告)、「家系的に長生きしない。」(原告)などと衝撃的な害悪を告知され、研修への参加を勧誘されたことが認められる。

(2) ところで、足裏診断とは、被告福永が説明するところによれば、天のエネルギーである「天行力」が頭から足の裏へと融通無碍に流れ抜けるのを本来の姿とし、頭が取れていないとそれが阻害され、病気、争い、金銭上の困難などの問題が生じるのであり、「天行力」の貫通あるいは阻害の程度が足裏の状況を見ることで判定でき、これが「天声」によって示されるというものである。

そして、被告らは、「天行力」を感得し、「天声」を聞くことができるのは被告福永のみであるとしながら、一方、平賀、新瀧など被告福永以外の者が足裏診断をしているところ、なぜ被告福永以外の者が、足裏診断をすることができるのかについて、その理由は明確でない(証人尋問において、平賀は、自らの足裏診断の正確性に自信がない旨証言しており、また、新瀧は、天声を聞くことができず、天行力を下すことができないにもかかわらず、足裏診断を行っているが、なぜ右診断ができるかについては、明確に回答できない旨証言するところである。)。

また、前記二の認定事実のとおり、「踵が汚れている」という同一の診断でありながら、「薬の影響が出ている。」(原告⑲)、「会社の将来が危ない。」(原告⑦)と異なった内容の害悪を告知されている理由も明確でない。

以上のことに照らせば、足裏診断の合理性には、はなはだ疑問があるといわなければならない。

(3) また、前記二の認定事実及び証拠(甲A四六)並びに弁論の全趣旨によれば、足裏診断に際しては、事前に診断カルテを作成させられ、自分の悩み、家族の病気、経済状態などを記入させられていたこと、右診断を受けた原告らは、自分の健康状態などの悩みに合致した害悪を告知されて、これが被告らを信用する原因の一つになっていることが認められる。

右認定によれば、足裏診断士は、右カルテにより被診断者の悩みを予め把握し、右悩みに対応した害悪を告知していたことが推認できるのであり、これにより被診断者は、右診断が信憑性のあるものであると誤解してしまうことは容易に想像できるところである。

なお、被告福永は、本人尋問において、事前に診断カルテを見ることは天から固く禁じられていた旨供述するが、右認定に照らせば、採用できない。

さらに、足裏診断との名称や被告福永の「生態哲学博士」という肩書も、右診断が、足の裏のツボ治療のように、いかにも医学的ないし科学的根拠があり、信憑性が高い施術であると誤解させかねないものというべきである。

(4) さらに、「足裏診断士養成マニュアル」(甲A一三)によれば、足裏を見て、まず、相手を驚かせるために、「あなたはこのままでは癌になるよ。」、「汚い足裏ですね。」、「相当血液を濁してきましたね。」などと第一声を吐くこと、「あなたは、こうだから、こう変わるしかない」と説得し、「本当に変わるというきめつけが大事である」、「ありとあらゆる観いの言葉をぶつけて、その人が腹をくくるまでとにかく吐く。」などと記載され、さらに、「最後の決め手」として用いる言葉の例が、「知恵の表現集」と称して、「医者ではあなたの病気は治せない。」、「五年後、今の借金は二倍に増えていますよ。」、「自殺するね。」などと多数記載されているのに対して、足裏診断技術に関わる留意点は、被告福永(ペンネームは国司院常照)の著書「金運・上昇運は足裏でつかめ」(甲A四九)を繰り返し読むように記載されている程度であること、右マニュアルの作成者であり、足裏診断士の養成を担当していた平賀は、診断技術よりも、研修への参加を決意させることに重点を置いて講義していたこと(乙九、証人平賀)が認められる。

右認定によれば、足裏診断においては、被診断者の不安や恐怖をあおり、研修に参加するしかないという気持ちにさせるためには、どのような言葉を用いて、どのように勧誘するかという点がもっぱら強調されていたことが認められる。

なお、被告らは、右「足裏診断士養成マニュアル」は、平成二年に天仕であった平賀が、私的な覚書き又は個人的判断により教材として作成したものにすぎず、被告法の華又は被告福永の公認のもとに頒布されたものではない旨主張する。

しかしながら、右マニュアルの標題や体裁等からして、平賀の私的な覚書きと認めることはできない上、平成七年一月から同年二月にかけて、右マニュアルはファイルにとじられ、被告法の華の松涛会館の待合室の本棚に置かれており、地方から上京した天仕が手に取り、目にすることができたことがうかがわれること(証人新瀧)、さらに、前記認定のとおり、原告らの診断内容及び勧誘を受けた経緯と右マニュアルの内容とが合致していることに照らせば、被告法の華の方針として、右記載のような診断及び勧誘方法が定着していたことが認められるのであり、被告らの主張は採用できない。

(5)  以上のとおり、足裏診断は、その内容自体から合理性にはなはだ疑問があるのみならず、名称も医学的根拠があるかのように紛らわしく、また、事前に被診断者の悩みを把握しておきながら、足裏診断で悩み等を言い当て、右診断がいかにも信憑性があるかのように仮装し、他方、被診断者に対し、診断の結果として不安をあおるような害悪を告知して、研修への参加を勧誘するという方法であることに照らせば、足裏診断は、まさに被診断者を研修に参加させることを目的としてとられた悪質な手段というほかなく、したがって、宗教的行為への勧誘手段として、社会的に相当であると許容される範囲を逸脱するものであると解するのが相当である。

(三) 研修への参加の勧誘

(1)  一般に、宗教により病気が治癒するなどの科学的根拠は証明されておらず、たとえ教義を広めるためとはいっても、安易に、研修に参加すれば病気が治るといった断定的な勧誘、説得は避けるべきであるといわなければならない。

しかしながら、前記二の認定事実によれば、被告らは、足裏診断の結果と称して、「五代前からの生き様が悪い。」、病気等が「子供に出る。」などと言って、先祖の因縁の話をし、害悪を告知して相手方を不安に陥れる一方で、「研修を受ければ大丈夫。」、「研修を受ければ問題がなくなる。」などと言って、具体的効果を断定的に約束する方法で研修への参加を勧誘していること、「二四時間以内に決めないと効果がない。」などと言って、慎重に検討する時間的余裕を与えず、即断を迫っていること、相手方が疲れて、判断力が失われるまで、数時間にわたって勧誘を続けていること、また、これらの勧誘は執拗であり、親族や金融業者から費用を借りてでも、研修に参加すべきである旨勧めることがあったことが認められる。

(2) ころで、被告らは、原告らに告知された害悪の内容は、いずれも抽象的なもの若しくは曖昧なものにすぎない旨主張する。

しかしながら、右害悪の内容が抽象的又は曖昧な場合であっても、原告らのように、自己又は家族に、病気、性格的傾向、経済的窮状等、自己の努力では容易には解決がつかない深刻な悩みを有しており、苦しんでいる者に対しては、右のような告知を何度も繰り返すことによって、その者の不安や恐怖心を増大させるには十分であり、必ずしも告知する害悪が具体的である必要はないというべきである。したがって、この点に関する被告らの主張は採用できない。

また、被告福永は、本人尋問において、修行によって現世的な利益や具体的効果が得られるわけではなく、「頭を取る」こと、すなわち、悩みに対してこだわりの気持ちがなくなることが研修の効果である旨供述し、前記のとおり、原告らは、いずれも勧誘の際、「頭を取るためには研修しかない。」などと再三にわたって言われたことが認められる。

しかしながら、前記二の認定事実及び証拠(甲A一二、四九、六七、七一)によれば、「頭を取る」ことの意味を理解した原告は一人もいなかったこと、被告福永の著書の中には、「ガンを治した」等、被告福永によって具体的効果がもたらされたかのような記述が多数見受けられ、著作名にも「結婚自由自在」、「金運・上昇運は足うらでつかめ」、「億万長者になる法」等、具体的効果、現世的利益が約束されるとの誤解を招きかねないものが多いこと、被告福永や被告野添を初めとする被告法の華のスタッフから、現世的な効果を約束された原告が多数存在すること等の事実が認められるのであり、被告福永の右供述は矛盾するものであり、直ちに採用できない。

(四) 宗教性の秘匿

(1)  一般に、宗教は、人の価値観等に大きな影響を与えるものであり、研修等に参加するかどうかの判断に当たっては、これが宗教に関わるものであるか否かは重大な関心事であり、また、修行や喜捨等の宗教的行為が、社会通念に照らして荒唐無稽であったり、科学的根拠が明確でなかったり、宗教的行為とこれに先立つ出捐が対価的関係になくても許容されるのは、被勧誘者が、社会通念や科学的根拠等を超越した真理、法則等である宗教上の教義を信じることができ、その者の宗教的自由の外部的表現として、自発的に宗教上の行為に取り組む場合に限られるというべきであり、このような宗教性を明示せずに勧誘するときには、被勧誘者において、研修や物品購入等が出捐額に見合うだけの効果をもたらすとの誤解が生じ得ることは、十分に予想されるところである。

したがって、宗教的行為を勧誘するに際しては、被勧誘者がその宗教的意義を理解し、その信仰心に基づいて修行等への参加を決定できるだけの説明をすることを要し、殊更宗教性を秘匿し、被勧誘者が宗教ではないと誤解していることに乗じて勧誘するなどの場合には、右勧誘行為は、不当な方法による勧誘行為として違法となるのみならず、これを秘匿することにより、被勧誘者の無知、誤解に乗じ、金員等を利得する意図があったことを推認することができるというべきである。

(2) 前記二の認定事実によれば、被告らは、前記(一)ないし(三)の一連の勧誘において、研修の主体が、被告法の華という宗教法人であること、研修の内容が後記(五)のように過酷なものであること、その参加費用の出捐が、被告法の華の教義上純粋な宗教的行為であり、研修の内容や効果と対価的関係にないことのいずれについても全く説明しないまま勧誘していること、被告らから、殊更宗教ではない旨の説明を受けた者(原告③、原告⑨、原告⑭、原告⑯、原告⑰、原告、原告)、医療行為類似の行為を受けることができると誤解した者(原告⑰、原告、原告)、静養等をするものと誤解した者(原告③)、能力開発セミナーや自己啓発セミナーの類であると誤解した者(原告⑤、原告⑦、原告⑫、原告⑬、原告⑯、原告)等、研修内容を説明されないことによって様々な誤解を生じたまま、研修への参加を決めた原告が少なくなかったことが認められる。

よって、(1)に照らせば、被告らの勧誘行為は、不法な手段によるものとして、違法であると解するのが相当である。

(3) 被告らは、研修の主催が宗教法人であることを明らかにしないのは、その点の自意識が希薄だからである旨主張し、また、研修参加者において、研修が修行に当たること、出捐行為が喜捨に当たることの認識を持つことは重要ではなく、客観的にみて、被告法の華の教義に沿った修行や喜捨をすれば、その効果が現れる旨主張するが、前記(1)で述べたことに照らして、いずれも採用できない。

(五) 研修について

(1)  前記二の認定事実及び証拠(甲A一四、一八、三九の1ないし3、)によれば、研修に際しては、原告ら参加者は、所持品をすべて預けさせられ、私語、電話を禁止され、食事は一日二回程度の粗末なものだけであり、睡眠時間は平均三、四時間で、時には徹夜させられることもあり、入浴や歯磨き等も許されない劣悪な環境に置かれたこと、その内容は、「七観行」などを長時間絶叫させられたり、街頭で土下座をさせられるもの、目隠しをさせられて数時間暗闇の中で正座させられるもの等、屈辱的であり、正常な判断能力を奪われかねないようなものであること、指導員は、高圧的な態度であり、原告らの中には、暴行を受けた者(原告⑤、原告④、原告)、研修を中止することを許可されなかった者(原告③)、監禁された者(原告⑤、原告④)、幻覚を見た者(原告)、研修後、持病等が悪化して、入通院を余儀なくされた者(原告⑰、原告、原告)等がいること、平成五年五月三〇日から平成八年七月一一日までの間、被告法の華からの救急出動要請が一〇件あり、うち三件が死亡事故であったこと等の事実に照らせば、その過酷さ、異常さは常軌を逸しており、宗教上の修行の名のもとに許容される範囲を著しく逸脱するものといわざるを得ない。

(2) 被告らは、このような研修の内容は、およそ宗教の修行が有する当然の属性である旨主張する。

しかしながら、このような主張は、研修の参加を勧誘する段階において、研修の過酷性のみならず、宗教的意義を十分に説明し、かつ、参加者がこれを真に理解して初めて成り立つというべきであり、被告らが、研修の内容を説明していないことは前記(四)記載のとおりであるから、被告らの右主張は採用できない。

(六) 研修後の「天声」

前記二の認定事実によれば、被告らは、研修終了後に、原告らに対して、「天声」が出たと称して、「家の中心」等の物品の購入を勧誘しているが、右勧誘は、研修直後にされる場合と、研修後時間をおいて別の機会にされる場合とがあり、前者の勧誘の場合は、研修によって正常な判断能力が失われた状態にあることに乗じ、後者の場合は、既に研修参加費用として多額の出捐をしてしまっており、このまま支払わなければ研修の効果がなくなると言われたことを信じていることに乗じ、更に追加して、出捐させることを意図するものであったことが認められる。

また、前記二の認定事実(原告⑦、原告⑭、原告⑲、原告⑱、原告に関するもの)によれば、被告法の華のスタッフは、研修参加者が「天声」による金額を支払えないなどと拒絶の姿勢を見せるや、「天声」の一部だけでもよいとして、金額を変更するなど、被告法の華の教義上絶対視されているはずの「天声」を、自らの判断で変更し、減額して勧誘行動を続けていることが認められ、さらに、被告福永が「天声」を受けた状況について、同被告の供述及び著書の内容が食い違っていること(被告福永本人)などに照らせば、「天声」といいながらも、その実は、被告らが、原告らに出捐させることを目的として利用している手段にすぎないものと解される。

3  結果

(一)  前記二で認定したとおり、原告らは、それぞれ一二〇万円から三五六九万円といった額を出捐している。右出捐額それ自体非常に高額であるというべきであるが、原告らは、これを準備するために、親戚から借金をしたり、定期預金や退職金等の将来の生活、特に老後の生活の原資となるべき金員を流用したり、中には、生命保険を担保に借入れをした者(原告①、原告)、金融会社から借金した者(原告)もいるなど、いずれも自らの年齢、家庭環境、資力及び社会的地位を考慮すると、不相当に高額な出捐をさせられたというべきである。

(二) 被告らは、右出捐行為は、その教義上、金銭への執着を絶つ修行としての意味を持つ宗教的行為であるから、金額の多寡及び出捐者が右の点を認識することは重要ではない旨主張し、また、任意の出捐であることを示すものとして、「私意書」(乙一二、一六、二一、二二の1、二五、二六の1、二八の1、二九の1、三〇の1、三一の1、三二の1、三三ないし三六、三七の1)、「天・申し入れ証」(乙二三)を書証として提出する。

しかしながら、前記のとおり、出捐に際し、宗教的行為であることの認識がなければ、研修や物品の購入等が出捐額に見合うだけの対価的価値を有するとの誤解が、必然的に生じ得るというべきであり、被告らの右主張は、かえってその違法性を基礎づけるものといわざるを得ない。

また、私意書等については、証拠(原告⑦本人、原告⑫本人、原告⑭本人、原告⑮本人、原告⑰本人、原告本人、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、研修に入る前に、他の書類とともに作成させられたものであり、その趣旨、内容について何ら説明がなかったことが認められるから、右書証によって、原告らにおいて、研修参加費用が宗教的な寄付であることを認識していたとは到底認められず、被告らの主張は採用できない。

4 目的

前記2(手段)及び3(結果)で述べたことに加え、被告らは、取得した多額の金員の使途については、人類の救済のための資金であるなどと曖昧な説明をするのみで、具体的な使途を明確にしないことに照らせば、被告らによる前記勧誘行為は、純粋な布教目的のみに基づくものとは到底認められず、金員の利得を図る目的であったことは明らかであるといわなければならない。

5 以上の事実、すなわち被告らの勧誘行為等の目的、手段及び結果等に照らせば、右勧誘行為は、宗教として社会的に相当なものとして許容される範囲を逸脱した違法なものであって、不法行為を構成することは明らかであるといわなければならない。

被告らは、別紙「被害態様(被告らの主張)」記載のとおり、原告らには、自発性を裏付ける行動が認められる、また、被害意識が希薄である旨主張するが、前記認定のとおり、被告らの行為の目的、手段及び結果等に照らせば、仮に、原告らに、被告らが主張する事実が認められるとしても、原告らが被告らの手段に巧妙に乗ぜられたこと、また、被告らの勧誘行為等が巧妙で、これが不法行為であることを認識するまでに時間を要したことを意味するものであり、不法行為の成立を否定するものではなく、採用できない。

四  被告らの責任

1  被告法の華について

前記一で認定したとおり、被告法の華は、被告福永を教祖とし、昭和六二年三月二六日に設立された宗教法人で、静岡県富士市に主たる事務所を置き、天声村と称する大規模な宗教施設を有し、全国に一〇か所の地域本部を置き、それぞれに地域本部長及び足裏診断士などを置いており、支部は合計約一八〇存在するものである。

また、前記二で認定したとおり、被告らの原告らに対する勧誘行為は、被告福永が開いた被告法の華の教義に基づく体裁をとった上で、足裏診断等によって、相手方の健康状態、家庭状況等に関わる害悪を告知し、研修に参加した場合の効果を執拗に述べながら、即断、即決を追って、被告法の華主催の天声村における研修等に参加させ、そこで、被告福永らが、「天声」と称して高額な金員の出捐を要求するものであり、その実態に照らせば、本件原告らの被害は、被告法の華自体が主体となって行われた、組織的な不法行為であると認めるのが相当である。したがって、被告法の華は、独立の主体として、民法七〇九条、七一九条に基づく責任を負うと解するのが相当である。

2  被告アースエイドについて

前記一及び二で認定したとおり、被告アースエイドが出版する被告福永の著書の「ガンが治った」等の記述や広告の謳い文句に興味を抱いて研修に参加した原告が多く(原告①、原告②、原告③、原告⑦、原告⑨、原告⑬、原告⑭、原告⑮、原告⑰、原告⑳、原告、原告、原告、原告、原告、原告、原告)、研修参加者に対する勧誘の端緒として極めて重要な役割を果たしていることが認められ、右出版行為それ自体は違法なものではないとしても、その後の被告福永や被告法の華のスタッフによる前記の違法な勧誘行為において、不可欠のものであったことは否定できないところである。

さらに、前記一の認定事実及び証拠(甲A一二、七一、七九、被告星山本人、証人長坂、同新瀧)並びに弁論の全趣旨によれば、被告アースエイドは、専ら被告福永の著作を出版することを業とする株式会社であり、一〇〇冊近い被告福永の著書(「国司院常照」という被告福永のペンネームを含む。)のうち、平成四年以降に出版されたものについては、ほとんどが被告アースエイドから出版されていること、被告法の華の教義を流布することを目的としていること、その出版物の連絡先は、被告法の華の布教部門の別名である「ゼロの力学本庁」とされており、被告アースエイドの本店所在地は、被告法の華の施設である松涛会館(東京都渋谷区松涛〈番地略〉)内にあること、被告アースエイドにかかってきた電話は、内線で「ゼロの力学本庁」に回し、同所で被告法の華のスタッフが勧誘していたこと、被告法の華の組織図によれば、株式会社さくら新聞とともに「企業体部門」に位置づけられること、被告法の華の福岡支部には、アースエイドの表示があり、原告らは、被告アースエイドと被告法の華を別個独立の主体として認識していなかったことが認められる。

以上の認定事実によれば、被告アースエイドは形式的に別個の法人格を持っていても、実質的には被告法の華と一体のものと認めるのが相当である。したがって、被告アースエイドは、被告法の華と同様、民法七〇九条、七一九条に基づく不法行為責任を負うと解するのが相当である。

3  被告福永について

被告福永は、前記一及び二で認定したとおり、被告法の華の開祖であり、教祖かつ責任役員として、また、研修参加及び物品購入の各勧誘行為に不可欠な「天声」の唯一の感得者として、前記違法行為の主導的立場にあり、さらに、自ら、足裏診断をし(原告①、原告⑩、原告、原告、原告)、「天声」を伝える(原告②、原告⑮、原告、原告、原告)など、前記不法行為を主導的に実行した者であり、その地位及び関与の程度に照らせば、他の被告らと共同して前記違法行為を行ったというべきであるから、民法七〇九条、七一九条に基づく不法行為責任を負うと解するのが相当である。

4  被告星山について

前記一及び二の認定事実及び証拠(乙八、被告星山本人)並びに弁論の全趣旨によれば、被告星山は、昭和五七年ころ、被告法の華に入信し、以後平成元年から宗教法人となった被告法の華の責任役員を務め、さらに、現在では、被告アースエイドの代表取締役を務める者であることが認められ、その地位、すなわち被告福永に次ぐ主導的立場にあったことに照らせば、被告福永らと共同して、前記違法行為を行ったというべきであるから、民法七〇九条、七一九条に基づく不法行為責任を負うと解するのが相当である。

5  被告野添について

前記一及び二の認定事実及び証拠(乙一〇、被告野添本人)並びに弁論の全趣旨によれば、被告野添は、昭和六〇年ころ、被告法の華に入信し、平成九年一月に被告法の華を脱退するまでの間、被告法の華の「天仕」としてその活動に関与し、平成五、六年からは、被告福永の「天声」を伝える天声講師という地位にあった者であること、さらに、原告らに対し、足裏診断(原告)、研修参加への勧誘(原告⑤、原告④)、研修の合格判定会でのあおり役(原告⑦、原告⑧、原告⑰)、物品等の購入の勧誘(原告①、原告⑦、原告⑧、原告⑨、原告⑫、原告⑮、原告⑲、原告⑱、原告⑲)を積極的に実行してきた者であることが認められる。

したがって、その地位及び関与の程度に照らせば、被告福永らと共同して前記違法行為を行ったというべきであるから、民法七〇九条、七一九条に基づく不法行為責任を負うと解するのが相当である。

なお、被告野添は、本人尋問において、被告法の華の教義に従い、誠心誠意前記勧誘行為等をしたものであるかのような供述をするが、これが社会的に相当と評価される範囲を逸脱していることは前記認定のとおりであり、採用できない。

6  被告井本について

前記一の認定事実及び証拠(甲A二六、乙三の1ないし3、被告星山本人)並びに弁論の全趣旨によれば、被告井本は、被告福永の実母であり、平成元年ころには、法人格を取得する以前の法の華の理事長を務め、さらに、現在、被告アースエイドの取締役、被告法の華の責任役員及び被告法の華の広報紙である「さくら新聞」の発行主かつ代表取締役の地位にある者であることが認められる。

したがって、その地位に照らせば、被告福永らと共同して、前記違法行為を行ってきたものというべきであるから、民法七〇九条、七一九条に基づく不法行為責任を負うと解するのが相当である。

五  損害について

1  出捐額

原告らが、それぞれ、別紙「出捐額の内訳」記載の金員(その合計金は、別紙「損害金額一覧表」の「出捐額」欄の金額と同一額。)を出捐したことは当事者間に争いがない。そして、前記認定によれば、右出捐額全額を損害と認めるのが相当である。

2 慰謝料

前記認定によれば、原告らは、その多くが自己又は家族の病気、性格的傾向、経済的窮状等、自己の努力のみでは容易には解決がつかないことに対して深刻に悩み、苦しんでいた者であり、前記被告らの勧誘行為により、悩みに対する不安や恐怖感を不当に増大され、反面、現代医学等では治療不可能な病気につき、研修等によって治癒できる等という根拠のない一時的な希望を持たされたこと、過酷な研修を受けさせられ、直接暴行を受けたり、研修後に入通院を余儀なくされた者もいること、多額の出捐を余儀なくされ、将来の生活の原資となる資金を失った者が多数いること等の事実を勘案すると、原告らは、相当の精神的苦痛を被ったことが認められ、研修等が宗教的行為であり、かつ、極めて過酷な内容であり、出捐は喜捨の性格を持つこと等の説明を一切受けていなかったこと等に照らせば、宗教的行為に対する自己決定権の侵害という側面も有しているというべきである。

そうであれば、本件を単なる財産権の侵害による不法行為であるとして、原告らが、右1の出捐額相当の賠償を受けるだけでは、その被った精神的損害を慰謝することはできないといわなければならない。

他方において、本件のような損害が生じたのは、原告らが被告らに対して接触を図り、被告らから話を聞くようになったことが重要な契機となった面もあること、原告らは、被告らからの多額の出捐の要求に安易に応じた面がないではないこと等、諸般の事情を考慮して、その慰謝料としては、原告らの出捐額の一割に当たる別紙「損害金額一覧表」の「慰謝料」欄記載の各金員と認めるのが相当である。

3  弁護士費用

本件事案の性質を考慮すれば、被告らの行為と相当因果関係のある損害としては、別紙損害金額一覧表の「弁護士費用」欄記載の各金員と認めるのが相当である。

六  消滅時効について

1  被告らは、抗弁として、原告①、原告④、原告⑤、原告、原告及び原告について、仮に、被告らの不法行為が成立するとしても、原告らの損害賠償請求権は、原告らの金銭の出捐時を起算点として三年の消滅時効が完成しており、これを援用する旨主張する。

2  ところで、民法七二四条によれば、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とされているところ、前記認定によれば、右各原告につき、出捐時から訴え提起まで三年以上の期間が経過していることが認められる。

しかしながら、事実関係を十分に把握するだけの情報及び資料等を入手することができず、法律的知識に乏しい右原告らにおいて、被告アースエイド、被告星山及び被告井本の存在、被告ら相互間の関係及び役割、被告らの行為に対する法的評価等について、容易に理解、判断することができず、また、証拠(原告本人、原告本人)によれば、自己が被害を受けた事実を認識することへの心理的抵抗があったことが認められる。

そうであれば、右各原告らが、出捐後直ちに、被告らから被害を被ったことを知ったと認めることはできないといわなければならない。

3  また、証拠(甲B一の1、四の1、五の1、原告①本人、原告⑤本人、原告本人、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、右各原告らが被害の事実及び加害者を知ったのは、早くとも、原告①が平成八年一〇月ころ、原告④及び原告⑤が平成六年七月ころ、原告、原告誠及び原告が平成九年ころであることが認められる。

そして、原告①、原告④及び原告⑤は平成九年四月に、原告及び原告は平成一〇年四月に、原告は平成一一年一〇月に、それぞれ本件訴訟を提起していることは明らかであり、右各原告について、いずれも本件訴訟の提起により、時効が中断しているといわなければならず、したがって、被告らの消滅時効の主張はいずれも採用できない。

第四  結論

以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求は、別紙「損害金額一覧表」の「損害額合計」欄記載の各金員及びこれらに対する原告らに対する不法行為があった後である同一覧表の「遅延損害金起算日」欄記載の日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官木村元昭 裁判官青木晋は出張のため、裁判官菊池浩也は転補のため、いずれも署名押印することができない。裁判長裁判官木村元昭)

別紙出損額の内訳〈省略〉

別紙被害態様(被告らの主張)〈省略〉

別紙

損害金額一覧表

原告番号

出捐額

慰謝料

弁護士費用

損害額合計

遅延損害金起算日

¥35,690,000

¥3,569,000

¥3,569,000

¥42,828,000

平成5年3月12日

¥34,350,000

¥3,435,000

¥3,435,000

¥41,220,000

平成7年7月1日

¥3,350,000

¥335,000

¥335,000

4,020,000

平成8年4月30日

¥1,200,000

¥120,000

¥120,000

¥1,440,000

平成元年11月30日

¥1,200,000

¥120,000

¥120,000

¥1,440,000

平成元年11月30日

¥13,150,000

¥1,315,000

¥1,315,000

¥15,780,000

平成7年12月21日

¥5,880,000

¥588,000

¥588,000

¥7,056,000

平成7年12月21日

¥4,965,000

¥497,000

¥496,500

¥5,958,500

平成7年12月31日

¥1,300,000

¥130,000

¥130,000

¥1,560,000

平成7年8月11日

¥2,600,000

¥260,000

¥260,000

¥3,120,000

平成7年11月24日

¥1,300,000

¥130,000

¥130,000

¥1,560,000

平成8年8月2日

¥4,640,000

¥464,000

¥464,000

¥5,568,000

平成6年4月21日

¥1,250,000

¥125,000

¥125,000

¥1,500,000

平成6年5月28日

¥6,708,414

¥670,841

¥670,841

¥8,050,096

平成7年12月25日

¥5,679,000

¥567,900

¥567,900

¥6,814,800

平成7年12月31日

¥2,325,000

¥232,500

¥232,500

¥2,790,000

平成7年11月20日

¥1,350,000

¥135,000

¥135,000

¥1,620,000

平成7年2月4日

¥2,330,000

¥233,000

¥233,000

¥2,796,000

平成9年4月15日

¥3,050,000

¥305,000

¥305,000

¥3,660,000

平成6年1月13日

¥2,500,000

¥250,000

¥25,000

¥2,775,000.

平成8年12月16日

¥15,020,720

¥1,502,072

¥1,502,072

¥18,024,864

平成7年1月20日

¥2,800,000

¥280,000

¥280,000

¥3,360,000

平成6年7月1日

¥4,600,000

¥460,000

¥460,000

¥5,520,000

平成6年7月1日

¥6,840,000

¥684,000

¥684,000

¥8,208,000

平成6年3月24日

¥13,682,000

¥1,368,200

¥1,368,200

¥16,418,400

平成10年6月16日

¥5,682,000

¥568,200

¥568,200

¥6,818,400

平成10年6月16日

¥6,090,000

¥609,000

¥609,000

¥7,308,000

平成6年3月23日

合計

¥189,532,134

¥18,953,713

¥18,728,213

¥227,214,060

別紙

請求金額一覧表

原告番号

出捐額

慰謝料

弁護士費用

請求額合計

遅延損害金起算日

訴状送達日の翌日

¥35,690,000

¥3,569,000

¥5,353,500

¥44,612,500

平成5年3月12日

平成9年5月27日

¥34,350,000

¥3,435,000

¥5,153,000

¥42,938,000

平成6年9月30日

平成9年5月27日

¥3,350,000

¥335,000

¥503,000

¥4,188,000

平成8年4月30日

平成9年5月27日

¥1,200,000

¥120,000

¥180,000

¥1,500,000

平成元年11月30日

平成9年5月27日

¥1,200,000

¥120,000

¥180,000

¥1,500,000

平成元年11月30日

平成9年5月27日

¥13,150,000

¥1,315,000

¥1,973,000

¥16,438,000

平成7年12月21日

平成9年5月27日

¥5,880,000

¥588,000

¥882,000

¥7,350,000

平成7年12月21日

平成9年5月27日

¥4,965,000

¥497,000

¥745,000

¥6,207,000

平成7年12月31日

平成9年5月27日

¥1,300,000

¥130,000

¥195,000

¥1625,000

平成7年8月11日

平成9年5月27日

¥2,600,000

¥260,000

¥390,000

¥3,250,000

平成7年11月24日

平成9年5月27日

¥1,300,000

¥130,000

¥195,000

¥1,625,000

平成8年8月2日

平成9年5月27日

¥4,640,000

¥464,000

¥696,000

¥5,800,000

平成6年4月21日

平成9年5月27日

¥1,250,000

¥125,000

¥188,000

¥1,563,000

平成6年5月28日

平成9年5月27日

¥6,708,414

¥671,000

¥1,006,000

¥8,385,414

平成7年12月25日

平成9年5月27日

¥5,679,000

¥568,000

¥852,000

¥7,099,000

平成7年12月31日

平成9年11月1日

¥2,325,000

¥233,000

¥349,000

¥2,907,000

平成7年11月20日

平成9年11月1日

¥1,350,000

¥135,000

¥203,000

¥1,688,000

平成7年2月4日

平成9年11月1日

¥2,330,000

¥233,000

¥349,500

¥2,912,500

平成9年4月15日

平成9年11月1日

¥3,050,000

¥305,000

¥458,000

¥3,813,000

平成6年1月13日

平成9年11月1日

¥2,500,000

¥250,000

¥375,000

¥3,125,000

平成8年12月16日

平成9年11月1日

¥15,020,720

¥1,502,000

¥2,253,000

¥18,775,720

平成7年1月20日

平成9年11月1日

¥2,800,000

¥280,000

¥420,000

¥3,500,000

平成6年7月1日

平成10年3月12日

¥4,600,000

¥460,000

¥690,000

¥5,750,000

平成6年7月1日

平成10年3月12日

¥6,840,000

¥684,000

¥1,026,000

¥8,550,000

平成6年3月24日

平成10年3月12日

¥13,682,000

¥1,368,200

¥2,052,300

¥17,102,500

平成10年6月16日

平成11年11月2日

¥5,682,000

¥568,200

¥852,300

¥7,102,500

平成10年6月16日

平成11年11月2日

¥6,090,000

¥609,000

¥913,500

¥7,612,500

平成6年3月23日

平成11年11月5日

合計

¥189,532,134

¥18,954,400

¥28,433,100

¥236,919,634

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